第2話
1日目 7月2日
はっと目を覚ます。これは驚いた。僕は頭を整理できずにいる。昨日の出来事をまだ整理できずにいることはそうなのだが、それ以上に驚くべきことだ。
僕は今日も『夢』を見た。しかも、その夢には昨日の彼女、佐倉さんが出てきたのである。
僕は、佐倉さんと海を眺めていた。あれはどこだっただろうか。多分、浜松市の弁天島だ。前に言った場所だから、覚えている。
僕は佐倉さんの隣で目の前に広がる海と海の中に佇む鳥居を眺めていた。穏やかに揺れる波の様子はまるで本物の光景のように鮮明に映っていた。だが、本当に驚いたことは彼女が夢にでききたことだけではなかった。しばらくして僕は後ろを振り返ると、後ろの建物から煙が上がっていた。
そこで夢は途切れた。
昨日の朝であれば、僕はこの夢を何でもないただの夢だと認識していたのだろう。馬鹿馬鹿しい妄想と切り捨ててしまっただろう。だが、今日は違う。昨日見た夢が現実に起こったことは事実であり、もしかしたらこの夢も現実で起こるかもしれない。
僕はしばらく唖然としてまったが、『ピピッ、ピピッ』と音を鳴らし、AM7:00を表示をした目覚まし時計が僕を現実に引き戻した。
なぜ僕は浜松にいたのか、なぜ彼女も一緒にいたのか、そしてあの煙は現実になるのか。まとまらない思考をいったん忘れ、僕はとりあえず支度をして、家を出た。
確か、去年の冬だっただろうか。まだ、桜が咲いていた頃。僕は浜松市の弁天島にいった。当時、テレビやネットで弁天島の鳥居に夢を願うとその夢が叶うという都市伝説な噂が流行った。僕はその噂にあやかり、何でもない平日に弁天島に行った。願いを叶えるという馬鹿げた噂であったが、僕はそれを理由にして学校をさぼった。今となってはただ学校に行きたくなかっただけかもしれないが、当時の僕はただ現実を受け止められずにいてどこか遠い場所に行きたかった。結局、どんな願いをしたのか具体的に覚えていないけれども、あの時見た景色はただ、ひとすらに綺麗で心が安らいだことを思い出した。
一方で、それと今日見た夢が繋がっているとも考えられないし、それに僕が佐倉さんと弁天島に行く理由がない。それに、佐倉さんにいきなりこんなことを言っても彼女は全く理解できないどころか、僕は変人扱いされる未来しか見えなかった。全くもって受け入れることのできない現実の直面し、僕はこの暑さにもかからわらず寒気すら感じてしまいそうだ。
結局、僕はこの先、今日という日をどうすればいいのか整理できないまま教室に着いた。一限目の数学はただでさえ全く頭に入らないのにもかかわらず、今日に限っては一ミリもその内容が頭に入って来ない。
正午を過ぎて五限目になっても整理のつかない頭のまま、ただ教室からわずかに見える東京湾に広がる海を見て、現実逃避をするだけだった。
夢で見た景色はちょうど夕暮れぐらいだっただろうか。このまま自分が教室にいて、このまま学校が終わり家に帰ってもあの夢で見た現象は現実に起こるのだろうか。それとも昨日のことはたまたま偶然に起きたことで、今日はただの自分の妄想だったのだろか。
そんな風に考えを巡らせ、外の景色を変わらず見つめていると視界に彼女が移った。そう佐倉さんだ。まだ五限目なのにカバンをもって一人校庭を歩いている。今にも校門をくぐり帰ってしまうようだった。体調不良で早退?家庭の都合?色々な可能性が考えられる。
だが、今の僕には何か自分の見た夢を関係しているようでならなかった。というよりも関係していて今僕が留めているこのモヤモヤを解決して欲しかった。
僕は悩む間もなくカバンを持った。
「すみません。体調が悪いので早退します」
僕は確認ではなく、そう言い残して教室を出た。
「お、おい」
現代文の教科担任がそう言った気がするが僕は先生の返答を求めていなかった。ただ、見失う前に彼女を追わなくてはならない。
僕は急いで上履きを履き替え、校門をくぐり抜け彼女を追った。しかし、辺りを見渡しても佐倉さんは見当たらない。とりあえず駅の方へ方向を絞って走ることにした。
しばらくして、運よく視界の中に彼女の姿を捉えた。
「佐倉さん」
僕は呼吸を乱しながら佐倉さんに声をかけた。佐倉さんは振り向くと驚きというよりも困惑したような表情で僕を見つめた。
「えっ、えっと、成田くんだよね。どうしてここに?」
僕は乱れた呼吸を整えようと肩で深く深呼吸をした後、逆に佐倉さんに尋ねた。
「佐倉さんこそ、どうしてここに?」
「私は・・・」
佐倉さんは分かりやすく動揺した様子で手をこめかみにあてた。
「あ、あの、そうだ。先生からお使いを頼まれて・・・」
「そんなわけないでしょ」
僕は佐倉さんの明らかな嘘に目を細めた。
「じゃ、じゃあ成田くんこそ、何でこんな時間にここに?」
「あ、あの、僕も先生からお使いを・・・頼まれて」
佐倉の急な返しに僕はすぐに良い言い訳を思いつくことができなかった。
「そんなわけないでしょ。」
彼女も僕の明からな嘘に大きな瞳を限りなく細めた。
「それにどうして私についてきたの。理由を聞くならまず成田くんから話してよ。」
佐倉さんは形成逆転したかのように、一気に僕に質問を畳かけてきた。
「いや、それは・・・その」
「話せないんでしょ。なら、私も話せない。昨日ことは感謝している。でも今回は別。急いでいるから、またね」
彼女が段々と遠のいてしまう、ここで追わなければ一生会えないよう気がした。
「夢、夢を見たんだ。」
僕は咄嗟にこう言った。きっと伝わらない。変なやつと思われるかもしれない。だけど、今僕が言えることはこれだけだ。
佐倉さんは僕の言葉を聞いて、今度は困惑ではなく驚いた表情で僕を見た。
「えっ、本当に?」
「う、うん」
「とりあえず、急いでるから一緒に来て」
僕は佐倉さんに言われるまま、駆け足の彼女を追いかけた。
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