第27話 異星の人達とわたし ⑦
艦は今、嵐に包まれていた。
その名も、『予測不能なピンキータイフーン』だ。
本当に、その…予測不能…
ミュリッタの人達を艦に迎えて数日。
艦のブリーフィングの時間。
ブリーフィングルームに着くわたし。
部屋の中から…
[ふざけるな!アタシは嫌だね!]
[ひどい!せっかく先生が心を込めて用意したのに!]
[アンタはアタシの先生でも何でもないだろうが!]
[星宮さんは喜んで受け取ってくれましたよ!アリスちゃんだって!]
何か、先生と麗玲さんが揉めてる…?
恐る恐る、中に入ると…
「あっ!エリィシアさん!」
ナギサ先生が少し怒り気味。
「孫さんが!先生がせっかく用意した服を着てくれないんですよ〜!何とか言ってあげて!」
へ?
ふ、服?
先生は白の詰襟のジャケットを着ていた。
袖口とかには金の刺繍がしてある、どことなくわたしの艦長服をイメージしている感じ。
「ブリッジクルーには着てもらおうと、エリィシアさんの艦長服と同じ素材で作ったんですよ〜。とても丈夫なんです。星宮さんも着てくれていますし、アリスちゃんも自分のホログラムを修正してくれたのに!」
ヒメカも?
見てみると、確かに先生と同じ服着てる。
「あの〜、れ…孫中佐は何で嫌なですか?」
チッ!
舌打ち。
「馴れ合いはしない、って言っただろうが、それに」
うっ、確かに言ったけど、まだ心を開いてくれないのね…でも、麗玲さんの事情を知っている身としては強く言えない…
「それに…なんですか?」
麗玲さんは、そこはかとなく、あからさまに嫌そうな顔をして…
「コイツの事だ!どうせ内側とかに変な刺繍…鬼子母神とか!をしてるに違いないだろうがっ!」
あっ…
そこ、心配してるんだ…
わたしと一緒。
ちょっと嬉しい♪
「ひどい!先生、鬼子母神とか知りません!そんな刺繍した事ありません!」
うん。
何か既視感のあるやり取りだわ。
「まあまあ、孫中佐。今は着なくても良いからせめてもらってあげてください。艦長命令ですよ」
ああん?
と反応して、数秒…
にこやかに見つめるわたし。
チッ!
舌打ち。
「仕方ない。もらってはやる」
しぶしぶ、受け取りを了承する麗玲さん。
「わらわも欲しいのじゃ〜!」
うわぁっ!!!
予想しない、声が響く。
いつの間にかブリーフィングルームの入り口にナナナ姫様が!?
「ひ、姫様?何処から入りましたか?ロックかかってますけど?」
「入り口からに決まっておろう?それに…ろっくとはなんじゃ?食べ物か?面白いものか?答えよ!」
え~っ!
生体認証でのロックよ?
何で入れるの?
アリス!どういう事?
そこには、ナギサ先生の上着を投影したアリスが…
「理解不能…理解不能…理解不能…理解不能…生体認証は、正常に機能中…ナナナ姫の生体認証ではミュリッタの人達と同じ行動範囲しかないはず…理解不能…理解不能…理解不能…」
アリス、壊れた。
「うむ!わらわを阻むモノは何もないのじゃ!ヒメカ行くぞ!探険なのじゃ!」
ナナナ姫様はヒメカの腕を引っ張る。
一応、抵抗するヒメカ…ま、無意味みたいだけど。
「それから、ナギサと申したな。わらわの服も用意せよ!よいな!」
ナナナ姫様はヒメカを引き連れて嵐の様に去っていた。
静けさだけがそこにあった。
ある時…
「いつもの様に蜻蛉にはアンスウェラーを!甲虫はオハンで押さえつけてからお腹に向けてミサイル!」
蟲の襲撃。
何と言うか、日常の襲撃…
まぁ、幸い小規模な襲撃。
まるでわたし達の様子を探る様な、そんな感じ。
蟲に知性があるとは思えないけど、なんだか恐いわ…
わたしは考えた戦法を試してみる。
麗玲さんが舌打ちしないって事は悪くないみたい。
「捕らえたわね!よ〜し、ミサイ…」
「おおっ!なんじゃアレは!?わらわ達を襲っていた蟲ではないかっ!たくさんおるのぅ!エリィよ!やっつけるのじゃ!」
えええええええええええええええっっっ!!!
何で戦闘中のブリッジに姫様が入ってくるのよ!?
「ナナナ姫の侵入…予測不能…測定不能…理解不能…」
アリス〜!?
それは、良いから戦闘のサポートしてよぅ!
戦い終わって、一度わたしは艦長室へ。
一応、忘れない内に戦闘の記録を取るようにしてるんだ。
勿論、アリスに聞けばそれで終わりなんだけど、自分がこういう事をやったら、こうなった。というのを記録しているの。
こうした努力が、きっと艦長というか指揮官には必要よね?
ここの所はミュリッタの人達と食事をしてる。
地球の食文化を教えたり、ミュリッタの事を教えてもらったり。
こういう時は女の子が多いのも利点よね?
その、お母さんが「女の子は喋らないと死んじゃうから」って言ってたから。あながち、間違ってないと思う。
やっぱり、話したいもん!
記録をつけ終わり、わたしは第2居住区の食堂に向かう
。。。
わたしの預かり知らぬ所。
「おお!?なんじゃ?此奴は?」
ナナナ姫が何かを見つけ追いかける。
「面白いのじゃ!見たことないのじゃ!捕まえてやるぞ!」
その何かと追いかけっこをするナナナ姫。
数分後…
「やった!捕まえたのじゃ!面白いのじゃ!早速ヒメカに見せるのじゃ!」
。。。
わたしが食堂に着く直前。
ヒメカも第2居住区の食堂で食事をしている。
わたしがお願いしたのと、ナナナ姫が「ヒメカはおらぬのか?」と、うるさ…賑やかになるから。
ヒメカは先に食事に着いている。
そうよね、わたしは戦闘の記録をつけてるし。
1人、タッパーを持ち込み、その中身をモグモグと…
「「「ヒメカ様。今日はどんな毒をお召し上がりに?」」」
でたな!姦し三姉妹!
ミュリッタの人達の中ですっかり、ジャンクフードにハマってしまったのが、この3人。
どうせまたヒメカが、高カロリーのジャンクフードを食べてると思ったんでしょ!?
ヒメカはお箸でタッパーの中身を摘んで、ぬっと差し出す。
「おばあちゃんの思い出の味です。どうぞ」
三姉妹は、ヒメカが差し出したソレを見て、凍結している。
「遅れてごめんなさいって、三姉妹しかいないわね?」
わたしは三姉妹とヒメカに近づく。
「どうしたの?」
三姉妹は冷や汗をダラダラかいている。
あら、珍しい。
食べ物を前にして怖気付いているなんて。
ヒメカは…
無表情で、お箸で摘んだソレを差し出したまま…
「ヒメカ…あんた、わたし達が蟲と戦っているのに…その、ソレはなに?」
わたしもつい、ヒメカがお箸で摘んでいるモノを見てツッコミを入れてしまう。
「おばあちゃんの思い出の味…イナゴの佃煮よ。美味しいよ?さぁさぁ、どうぞ、ラララさん、リリリさん、ルルルさん!甘くて美味しいですよ?甘露ですよ?」
ヒメカの食べていたのは…
イナゴの佃煮
流石のわたしも食べた事ない…
その異様な見た目の本能敵恐怖が三姉妹の食欲を上回っている模様。
そこに…
「ヒ・メ・カ!ここにおったのか?探したぞ?見よ面白いモノを捕まえたのじゃ!」
ナナナ姫は、手に持った何かをぬっと突き出す。
その何かは急に羽を広げバタバタとしだす。
「おお!?羽があるのか?此奴?」
そして、その何かは姫様の手を離れ、ブ〜ンと飛翔。
あっ、ヒメカの鼻の頭に着地したわ。
時間が凍結。
「ぎ」
ぎ?
ぎ…
ぎ………
『ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!!!!』
わたしは咄嗟に耳を手で覆う。
音波兵器もビックリの音量だわっ!
あっ!ヒメカが椅子から転げ落ちたわ。
そのまま四つん這いで…おパンツ丸見えだけど…マッハで食堂を八の字に駆け回る。
そ、それだけ素早い動きもできるのね…
そして、しばらく走り回った後、隅っこで体操座りして、ガタガタと震えている。
どどど、どういうこと?
姫様…
一体何を…
「どうしたのじゃ?ヒメカ?平べったくて黒くテカテカしててすばしっこくて面白いヤツではないか?」
ヒメカは超高速で首をブンブン横に振る。
ナナナ姫様が捕まえてきたモノを確認する、わたし…
もしや…
「あっ…」
そこには…
黒くて……
テカテカしていて………
薄っぺらくて…………
気持ち悪い、アイツが…………
「な、何で!?何で!?何で何で何でゴキブリがイルダーナにいるのぉぉぉぉぉぉ!?」
そう、姫様が捕まえてきたのは…
『G!!!』
即ち
ゴ・キ・ブ・リ!?
と、とりあえず!
置いておいた適当なモノで引っ叩いて撃破。
「なんと?殺してしまったのか?」
不思議そうにナナナ姫。
「姫様。こいつらは生かしておいていいことは何もありません。見かけたら退治してくださいね」
「わかったのじゃ!」
本当にわかってるのかしら?
「ところで何故、ヒメカはあれを見てそんなに怖がっておるのじゃ?」
ヒメカはか細い声で、泣きながら語る。
「小さい頃、おやつを食べていたら、いつの間にか紛れ込んでいて…知らずに一緒に…ガリっと…オェップ…」
思い出して口を押さえるヒメカ。
うん。
それは、トラウマだ…
「アリス…何でイルダーナにGが?」
アリスは姿を現す。
「おおっ!アリスではないか!其方はいつも魔法みたいじゃな!」
アリスの登場に喜ぶナナナ姫様。
「少々お待ちを…」
アリスは理由を探る。
「いくつかのパターンを検証しましたが、可能性を2つまで絞り込めました」
ふむふむ。聞かせて。
「1つは、マスター達がイルダーナに転送された時荷物など何かに紛れて侵入した可能性があります」
うっ…
わたしの荷物ではないことを祈るわ。
「もう1つは…イルダーナが建造されてから時間凍結保護処理を施される僅かな時間にイルダーナに侵入。時間凍結保護処理が解除された後、イルダーナ内で繁殖したものと推測されます」
。。。
な、何と言うか、スケールが大きいやら小さいやら…
「そ、そんな事どうでもいいから!アリスちゃん!イルダーナ内のアレを絶滅させてっ!」
ヒメカ、必死。
「少々お待ちを、今方法を演算します」
アリスの目に物凄い数式が羅列され流れていく。
しばらくすると…
「エ、エマージェンシー…」
アリスが変な事言い出したわ。
「ゴキブリ絶滅のための方法を65536通り以上演算…演算…対処、不能…対処、不可能…演算…殲滅不能…演算、絶滅不可能…ま、マスター…」
え~っと、何?
「エマージェンシー…アバターとしての機能を一時停止…艦内の機能の維持を優先しつつワタシ自身の機能の回復に…努めます…」
アリス消えた。
ヒメカちゃん?
あなたのお陰でアリスがまた壊れたわ…
どうしてくれるのよ…
とまぁ、こんな感じ…
でもでもっ!
こんなのは『予測不能のピンキータイフーン』のほんの一端なんだからッ!
目安箱にこのピンキータイフーンに関する苦情の投稿が爆増するのは、もう少し先の話。
ちなみに、一番の被害者は
ナナナ姫に一目で気に入られて…
その圧倒的な陽のパワーに振り回される…
圧倒的に陰の、マイペースキャラがマイペースを貫けなくなってしまい…
あまつさえ、自身の天敵を知らぬとは言え面白そうに捕まえて、事故とは言え鼻の頭に着地された…
わたしの親友…
『星宮ヒメカ』その人である。
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