第26話 異星の人達とわたし ⑥
わたしは、事情を説明しながら第2居住区へ向かう。
整備はロロムという男の人が担当している事を教えてもらった。
ミミアさんと同じ低い身分だそうだけど、代々魔導技師の家系で腕も良く、低い身分ながら王家に召し抱えられている家らしい。
こうして聞くと、社会で習った大暗黒期のはるか昔の江戸時代の士農工商というのを思い出すわね。
第2居住区でロロムさんをピックアップ。
ロロムさんは、10代後半から20歳くらいでミュリッタでは成人という事になるそうね。
見た目は…
何ていうか…
背は、ちょっと低い。
ナヨッとしていて、細身…というか…痩身、というか…モヤシ。
た、頼りなさそう…
失礼な話だけどね。
そんなロロムさんを一行に加えてミュリッタの人達の魔導船のある格納庫の前に。
すると中から…
[ああ〜ん!硬〜い…]
[ちょっと待って!中に中に…だ、駄目ッ!駄目だって!入っちゃったじゃんか…]
[あっ!ちょっ!中に、だ、し…]
聞こえてくる声に1人顔を真っ赤にするわたし。
他の人には気づかれていない…
「だぁぁぁぁぁっ!何やってんじゃぁぁぁぁ!!」
わたしは恥ずかしさを打ち消す、勘付かれない様に勢い良く格納庫へ突入。
「ん?どったの?」
そこには魔導船の外壁のパネルを剥がし、その中に片腕を突っ込んでるリッカさんが…
「あの…今、何か変な事口走ってませんでした?」
ハテナ顔のリッカさん。
「いや~、壊れたパネルが硬いから『硬〜い』とか口にした様な…それから『中に中に』ってウキウキで工具持ったまま手を突っ込んでそしたら工具が滑って『駄目!駄目って!』って必死に捕まえようとしたけど『中に入っちゃって』…『中に…だぁぁぁぁ!しっ!痛ってて、どうやって取ろう』とは呟いてたけど、それがどっかしたの?」
ま、紛らわしすぎる…
変な事考えた自分が恥ずかし過ぎる…
「エリィシア殿、この御仁は?」
わたしの恥ずかしさはお構い無しに、ミミアさん。
「こ、この人は立花リッカさん。この艦のメカニック、整備ですね。を担当している。変な人です」
「こらっ!変な人って…褒めるなよ照れるじゃねぇか」
にっこりとリッカさん。
変な人ってのは、あなたにとっては褒め言葉なのね…
「うわぁぁぁっ!外壁をっ!なんて事をっ!」
ロロムさんが剥がされた外壁パネルに駆け寄る。
見てみると、その部分は損傷が酷く、わたしでも交換とかしないといけないと分かる。
「いや、さすがにそれは使えないぜ?中も配線とか切れてるからな〜、直すのが骨が折れそうだぜ♪」
ウキウキしてる、この人は…
「でも、この金属にしても、知らない味だし、中の配線もさすがに地球の技術じゃないから、ちょっとあたしには手を出せない感じだなぁ、今は」
味…
味って言ったっ!!
舐めたわね!この人はっ!!
「な、成る程、ちょっとボクにも見せてください」
リッカさんの開けた外壁を覗き込むロロムさん。
それを興味深そうにぴったり背中越しに覗き込むリッカさん。
ちょっと、近すぎません?
「成る程、この回路は…これは…良かったっ、て…」
振り返ろうとするロロムさん。
次第に顔が赤くなっていく…
「あ、あのリッカ様?」
「ん?堅苦しいな、リッカでいいよ」
「いえいえ!歳上の方を呼び捨てには出来ません!ですから、リッカさん?」
「だから何?」
「いや、その近すぎませんか?」
「いや~、近くないと見えないじゃん」
「いや、その、当たって、まして…」
「ん?何が?」
「いえっ!ですから、そのリッカさ、…んのたわわな魅惑の果実が…」
「ん?あ~、もしかしておっぱい?」
「うわぁぁぁぁ!おっきい声で言わないでっ!」
「あ~、ゴメンゴメン、あたし以外に大っきいからさ」
少し離れるリッカさん…
あの、多分まだ当たってる…
それにしても、何か、面白いやり取りが…
「「「んまっ!ロロム!リッカ様のお胸を!罰を与えなければ!」」」
出たっ、姦し三姉妹。
「いやいや、あたしが勝手にくっついただけだからそんなのいいからっ…って、過激な発言だなぁおい。ま、いっか」
あっさり受け流すリッカさん…
何なのこの人たち…
「んでさぁ、ロロムだっけ?この管何?」
「あ、ああこれは魔導炉から直接延びている管で、この船の生命線です。良かった傷はない様です…って、リッカさん…あの、近いです…まだ当たって、ます…」
「ん?だから気にすんなって。へぇ~、そうかこれが、魔導炉ってのから延びてんだなぁ…んっ?待てよ、この構造って…」
ロロムさんを魔導船の外壁とサンドイッチ、というかプレスする感じのリッカさん。
いや、気にするでしょ。純情そうなモヤシっ子よ、彼。
「あ~〜〜〜〜〜!!!アレとほぼ同じだぁぁぁぁぁッッッ!!!こうはしちゃいられねぇ!」
急に大声…奇声を上げたと思ったらロロムさんの腕を掴んで…
「痛いッ!痛いですよ!リッカさん…!」
「艦長!コイツ!今からあたしの助手ね!良いっスよね?そちらの偉い人!」
物凄く興奮気味でミミアさんに確認を取るリッカさん。
「ええ。構いませんよ。地球の技術を学ぶことは彼にも大きな糧になるでしょう。ロロム。リッカ殿からしっかり学んできなさい」
ミミアさん、あっさり承諾。
「ミミアさんが良いなら良いですよリッカさん」
「よっしゃー!行くぞロロム!『悪はチンタラ、善は急げ』だ!」
物凄いスピードでリッカさんはロロムさんを連れて格納庫から出ていきました。
って、善は急げは分かるけど、悪はチンタラってなに?
その様子を見たミミアさんはクスクスと笑っている。
「嵐の様な御仁だ。実にたくましい方ですね」
うん。
それでいて、極めて変人ですけどね。
「とりあえず、格納庫の件はこれで終了ですし、一通りのご説明をしました。他にも何かありますか?」
わたしはミミアさんに聞く。
「おお!わらわはお腹が空いたのじゃ!皆で食事をしたいぞ!ヒメカも一緒じゃ!」
それを聞いていたナナナ姫様が声を上げる。
片腕ではヒメカを引っ張っていて、ヒメカが少し食傷気味な顔しながら補充したおやつを食べてる。
そんなヒメカは…
時折、三姉妹。特に緑のルルルを警戒しているわ。
三姉妹さん。
地球には、『食べ物の恨みは恐ろしい』という言葉があるのよ。気を付けて下さいね。
「ナナナの言も一理ありますね。我々としても、久方ぶりに落ち着いて食事もできます。ですが…」
ミミアさん、何か心配でもあるのかしら?
「地球の食べ物の説明は少し聞きましたが、実際はどの様な物か、少し不安ではあります」
少し、悪戯っぽい表情。
こんな顔もする方なのね。
「では、皆さんの食文化をお伺いして、今日はわたしが選びますね」
「それは、痛み入ります」
こうして、我々は食堂へ向かいます。
「「「我々が、お毒見を!!!」」」
並んだ料理をみて、興奮気味の三姉妹。
「よい!ヒメカ達は何ともないのじゃ!わらわ達も何ともないのが道理なのじゃ!其他達も好きに食べよ!」
一瞬、しょんぼりしたかと思えば、ぱあっと今日一番の輝かしい笑顔の三姉妹、特に緑のがね。
緑のはおずおずとヒメカに近寄る。
「もしっ!ヒメカ、様…」
警戒するヒメカ。
「あの…ワタクシが食べてしまった油芋と黒く爆発する甘露水はどれでしょうか?」
盗った事は自覚の上、謝らないのね…
それでもヒメカは、教えてるみたい。
これは…
教えた方が自分の食べ物が安全と判断したわね。
「この、ポテトフライとコーラというやつです。このハンバーガーと一緒のセットにたまにご褒美でチキンナゲットをつける人もいます」
「是非!それを!!ワタクシ達3人分!」
目を輝かせるルルル。
はぁ…
ため息と共に端末を操作するヒメカ。
「まぁ、地球の食べ物を気に入ってくれたのは嬉しいので、アレですけど。私の食べ物には手を出さないで下さい」
なんだかんだで優しいヒメカ。
なんだけど…
数分後
配膳ロボットが持ってきたのは…
「「「こ、これは…っ!」」」
ヒメカの『通常運転の量』でした。
「あっ、私達の国のマナーとして、基本的に『お残し厳禁』です。キチンと食べて下さい」
食べ物でやられた恨みは食べ物で仕返し…
発想が、飛んでるわね、ヒメカ。
「やれやれ…さて、エリィシア殿。食べ物の説明をお願いできますか?」
ミミアさんも少し呆れ顔。
わたし達の卓上には、なんと言いますか、わたしチョイスの至って普通、というかコテコテの日本の夕食のメニュー。
まず、ご飯にお味噌汁。
ちなみに、味噌汁は自分で具材を選べるという何ともニッチなシステムがあるわ。
今日はシンプルにお豆腐、ワカメにおネギ。
後は、肉じゃがに青物のお浸しに香の物。
それに、魚の煮付け。ちなみに、今日はみんな大好き鯖味噌風。
理屈や技術は分からないけど、食料供給システム『ダグザ』が、ほぼ完璧にレシピを再現してくれてる。まぁ、『限りなく似たような物』を素材として作り出してそこから調理してるとか何とか、アリスが言ってたわね。
「これが、エリィシア殿のお国の夕食なのですね」
「はい。我が家での定番を再現しました。お料理の説明はした通りですね。では!」
わたしが両手を合わせると、キョトンとした表情のミミアさん。
「その仕草にはどの様な意味が?」
あっ!
これはっ!!
『いただきます』
を知らないパターンだわっ!
わたしは、知っている知識の範囲内で『いただきます』について説明をする。
「成る程。確かに、我々人間は動物、植物の命を『いただいて』いますね。その命に感謝の意を込めての『いただきます』ですか…素晴しい文化ですね。わたくしも真似ましょう。ほら、ナナナ。貴女も。皆も」
素晴しい、お人柄。
ミミアさんも、ナナナ姫様も『いただきます』をご理解していただけたわ。
その上、仕草を真似てくれるなんて…
異文化コミュニケーションで今日一番感動してる。
「では、ご一緒に」
わたしが手を合わせるとミミアさん、ナナナ姫様、ヒメカ。それと一緒に食べる事になったミュリッタの方々も手を合わせて…
『いただきます!』
こうして、楽しい食事の時間を過ごしました。
逃避行の疲れや不安を払拭するかの様に、穏やかなミュリッタの人々は笑顔で温かい食事を食べてました。
それを見て、わたしも温かい気持ちになりました。
余談ですが、この最初のわたしのプレゼンが良かったのか、そもそもミュリッタの人達の食文化の好みに合っていたのかは分かりませんが、ミュリッタの人達は和食を好んで食べてくれている様です。
極一部の人達を除いて
「「「嗚呼…こ、これは…毒…されど何と、甘美な…」」」
うん。
アンタ達はそっちで勝手にやってなさい。
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