一章03話 キーノ・ファスリス・インベルン

[newpage]#01 キーノ・ファスリス・インベルン

 アンデッドな異世界の少女は、

「キーノ・ファスリス・インベルン」

と名乗った。それが、意思を持って、このアンデッドの徘徊する町で、意志を持って活動していた、金髪白肌紅瞳のアンデッドな少女の名前だった。

『女の子ね』

「もう一度、名乗りますね。私は、鈴木悟、サトルが名前です」

「サトルさま」

「さん。で、良いですよ、キーノさん、ですね」

「はぃ、サトルさ・・・ん」

「どこか、話せそうな、場所はありますか」

「はぃ」

 キーノに案内されると、廃墟の一つから、階段を降りると周囲から水が流れてきて、下水が集まって流れている場所となっていた。廃墟になってから長いみたいで、水には汚水が少なく、湿気を含んだ、少し黴の匂いがするくらいで、水の中に大量の粘体スライムが蠢いて、汚れを食べていた。時折、下水に流れるゴミも、粘体スライムが食べていた。引っこ抜いた草を、下水の投げ込むと、粘体スライムがすぅーっと移動してきて、草を崩れる土も一緒に包み込んで、取り込むように捕食していた。

 下水道の脇を歩きながら、

『リアルと一緒ね』

粘体スライムが、下水処理している様子を、クミコは苦笑しながら、サトルと話していた。

『はい・・・アンデッドが表で、徘徊してるのは、Nazarickと一緒ですよ(苦笑)』

 ピンク色の触手が伸びて、下水道の粘体スライムも荒地に居た粘体スライムも同じで、数億体の多様性幹細胞が集積したニューロ細胞の核に支配されていて群体として粘体スライムを構築し、一体の粘体スライムとして活動していた。

『これも、私と同じだねぇ・・・』

 “YGGDRASIL”の粘体スライムも、基本的に構造は同じで、数百兆を超える粘体スライムの群体で構成され、ピンク色の肉棒な粘体Elder Pink Oozeとして活動していた。


[newpage]#02 地下室のキーノ

 地下の下水道と思われるけど、都市の排出物から来る汚れは無くなっていて、普通に水が流れていた。下水に綺麗な水で流れているということは、廃墟になってからかなり時間が経過していることを示していた。下水道があるということは、都市に上下水道のインフラを整備するだけの技術が、廃墟となった都市にはあったということになる。

「ここ・・・です」

 キーノに案内された先は、地下の階段を少しだけ、上がったところにある、作業部屋のような場所だった。殺風景な雰囲気であったが、壁には錆びた工具がかかっていて、机と壊れそうな椅子が置かれていた。


 部屋の隅には、廃墟で見た、水道のような魔道具と、水場にかなり大きな桶が置かれていて、タオルも置かれていた。


 明かりが無かったので、サトルは、アイテムボックスから、ランプを取り出して、机に置いて使った、オレンジ色の“魔法光”を宿したランプを点灯することができ、“YGGDRASIL”のアイテムは、ここでも使えることを確認していた。

 机には、何冊かの本が、置かれていた。


[newpage]#03 ここは異世界みたいね

 綺麗な革の装丁で、紙が束ねられて、糸で縫製するように綴じられて、豪奢な造りの本となっていた。

『文字は、地球の言葉じゃ、なさそうだよ、サトル君』

 本の表紙や背に書かれている文字は、サトル=モモンガが読めるような文字で、書かれていなかった。

『そうですね』

 クミコ=ぶくぶく茶釜とサトル=モモンガの念話は、キーノには、聞かれていないようだ。ただ、椅子はかなり古く、腐食もすすんでいるようだった。ピンク色の肉棒な粘体Elder Pink Oozeは、体重そのものを調整できるけれど、オーバーロードの白麗な骨格と組み合わされと、骨格+粘体スライムであるため、それなりに重量があった。また、前衛盾役のクミコ=ぶくぶく茶釜は、粘体スライムの“YGGDRASIL”では物理攻撃力が、重量に依存しているので、戦闘時は重量を大きくとっていた。Nazarick内だと、体重調整をして本人と同じ重さにしていたが、Nazarick外での戦闘時は体重を若干?増加させていた。


 大きさもかなり自由に選べるが、大きくすると本体核も大きくなるので、大きさは変えずに体重だけを変更していた。最大重量はHPに影響されるので、非常に広範囲に体重調整をすることができるのが、粘体スライムの特徴となっていた。

『何か?』

鋭い視線が、ピンク色の肉棒な粘体Pink Elder Oozeから発して、

『なんでもないです・・・』

冷たい視線が刺さる。いつの世も、女性と体重は、タブーなの。

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