第3話 ピノキオⅢ

 翌朝、僕は寝汗でびしょびしょになりながら、いつもより少し早めに起床した。

 あの夢は一体なんだったんだろう。

 いつもみる夢よりも、ずっと鮮明で、ずっとリアルだった。


 鼻が伸びる、というお話は知っている。

 ピノキオだ。

 でも、ピノキオは確か、うそをつくと鼻が伸びる、という話じゃなかったっけ。

 僕はうそなんか言っていなかったのに、なぜあんなに鼻が伸びたんだろう?


 ふらふらとしながら、汗でぐっしょりとしたパジャマと下着を着替えて、机に向かう。時間を無駄にできない。少しでも勉強して、次こそはちゃんとしなくてはならないのだから。

 なのに、なかなか集中することができない。

 頭が重くぼんやりとする。

 あの夢は一体何だったんだろう。

 お母さんは何を思いながら僕の鼻を切り落していたのだろうか。


 朝ごはんの時間になり、僕はダイニングへ向かう。

 お母さんがいつものように茹でたウインナーと焼いたパン、生野菜のサラダとヨーグルトを机に並べてくれた。僕は席に着き、フォークでウインナーを突き刺す。ぶじゅり、皮が突き破られて中から汁が滴り、肉の香りが僕の鼻腔をくすぐり、僕は。


「……おええ」


 僕は盛大に吐いた。



 その日は学校を休むことになった。

 お母さんは空っぽの胃から胃液を吐いた僕に驚き、それから悲しそうに、なんていやらしい子、と言った。体調が悪いならそう言えばいいのに、無理に食べろなんて誰も言ってないでしょう。なのに、吐くだなんて。そんなにお母さんを困らせて楽しいの?

 

 僕は布団をかぶって、また声を殺して泣いていた。

 やってしまった。泣いてる場合じゃないのに。早く体調を整えて、勉強して、間違えないようにちゃんとして……。


 夢で見た切り落とされた鼻が頭から離れない。

 ウインナーが自分の鼻に見えてきてしまい、気持ち悪くなった、なんてさすがに言い出せなかった。

 吐いたのはそのせいだけど、なんだか頭と体が重くてだるく、体の調子がおかしいのも本当だった。熱もないのに、僕はどうしてしまったんだろう。


 眠れば、治るかな?

 僕は目を閉じる。



 そうしてまた、同じ夢をみた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る