第3話 ピノキオⅠ
ウインナーは、少し焦げ目がつくくらいに焼いたものが好きだった。
毎朝焼いたウインナーを出してくれるお母さんが、ある日、本当は茹でた方が体にもいいしおいしいんだけどね、お湯を沸かすの大変なのよ、ごめんね、と言うものだから、ううん僕は焼いた方が好きだよ、と答えた。
翌日から我が家のウインナーは茹でたものになった。
ね、こっちの方がやっぱりおいしいでしょう。
にっこりと細められたお母さんの目が少し怖くて、僕はうん、そうだねと答えた。
僕はよく間違える。
テストでも毎回必ず何かを間違えるし、正しい答えがあるのに違う方を答えてしまうことが度々ある。
そんな間違いだらけで一人では何もできない僕のことを、お母さんは決して見放さず、いつもちゃんとした正しい答えを教えてくれた。
僕の好きな色は青。
僕の好きなものはボイルしたウインナー。
僕の得意教科は理科で、好きな女の子のタイプはおとなしい子。
僕の将来の夢は医者か弁護士か学者。
だから僕は、将来に向けて間違わないようきちんと勉強をしなくてはならない。
勉強して賢くなって、夢を叶えなければ、それは間違った人生だ。人生で間違えると、取り返しがつかない。そんなことになれば、お母さんにもう助けてもらえなくなるし、僕一人では何もできなくてどうしたらいいのかわからなくなってしまう。そんなのは嫌だ。
その日僕はテストでまた満点が取れず、落ち込みながら学校の帰り道をとぼとぼと歩いていた。
またお母さんをがっかりさせてしまうと俯きながらため息をつき、顔を上げると見慣れない建物が目に入る。
あれ、こんなところにあんな建物、あったっけ?
僕は不思議に思ったが、すぐに思い直した。きっと今まで気が付かなかっただけだろう。僕は何でもすぐに間違えるから、この建物のことも、気づくべきだったのに気づけなかったに違いない。
『まどろみ図書館』と看板のある建物を横目に見ながら通り過ぎようとして、ある女の子の姿を見つけ、思わず立ち止ってしまう。
女の子は僕より小さくて、たぶん小学1年生か2年生くらいだろう。
真っ白な髪は腰のあたりまであり、もこもことまるで羊の毛のように触り心地がよさそうで、透けるような白い肌に、ぱちりと見開かれた瞳は赤みがかかっていた。
図鑑で見たことがある。……といっても、それは人間ではなく、アルビノについて解説された動物のものではあったが。
あの子も多分、アルビノなんだ。
初めて目にするものに度肝を抜かれ、ぼうっとしていたら、女の子がこちらに気が付いた。
僕と目が合ったその子は、パッと花が咲いたかのように明るい笑顔になった。
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