第10話最終話「魂を追う者、赤か?青か?」
「キンコーン、高円寺秋彦君、至急指導課室まで、来なさーい」
校内放送で呼び出されてしまった。
何で?
退学案件なのか?
俺は何もしていないぞ!
コンコンコーン、スリーノツクで指導課室を開ける。
「お待ちかねの高円寺秋彦です」
狭い指導課室の中にいたのは、指導課長の長野を筆頭に、指導課教師のお歴々一同。マラソン校長、毒にも薬にもならないハゲ教頭、俺の担任、柴田先生。
それと、この場にそぐわない、上杉景子の執事、仙波さん。愛知県警の捜査一課、金栗警部通称カングリ警部、
なぜ?この人達が?
アタピン刑事もいる。与品女性刑事。アタマにピンとくるが口癖である。
一体、何があったのか?
「俺が呼ばれたのは、上杉家の御令嬢が関係しているんですか?」
「さすが、高校生探偵、いかにもお見通しですな」カングリ警部が嫌味を言う。
「実は、お嬢様の行方が不明なのでございます」仙波さんがようやく、らしい説明を始めた。
「それは、誘拐ということですか?」「それはまだ、決まった話ではない」長野がブツクサ言う。
「では、なぜ?俺が呼ばれたのでしょうか?」
「お前には、関係ない!」
じゃぁ、呼ぶなよ!
「まあまあ、探偵さん、大人には、それぞれ事情という物があるんですよ」カングリ警部がなだめる。
その事情とやらのせいで、俺は、生涯初めて指導課室に呼び出されて、それを全校生徒に放送されてしまったんだよ。
「関係ないなら、帰ります」
「待て!そもそもお前のせいなんじゃないのか?」長野が突っかかってくる。
「それは、どういう意味ですか?」
俺はどうしても、この長野を好きになれない。こいつは、何とかして、破滅に追いやりたい。
仙波さんに聞く、
「俺に、何か出来るのでしょうか?」
「それは多分、あなた次第でしょうな」
「大人の事情とやらを理解せよと?」
「それも1つの選択でしょう」
カングリ警部に聞く、「帰っていいですか?」
「どうぞどうぞ、お帰りください」
相変わらず、食えないやつだ。
帰るためにドアを開けたが、とうせんぼううをするように、そこに居たのは、明美ちゃんだった。
「秋彦君、ちょっと待って」
「帰っていいと言われています」
「お願い、私の話を聞いて」
そう云われても、室内には、居場所がない。しょうが無いので廊下に出る。明美ちゃんは、なぜか、チアガールのユニフォームを着ている。今日は真っ白なチアガールだ。
「どうしたんですか?その扮装は?」
「ただ、単に、応援団の練習中だったのよ」
いつから応援団になったんだ。
「関係者一同、そこを動くな!」
明美ちゃんは、もう一度部屋に入り、トンデモナイ事を宣言した。
「何だ!その格好は?校内では制服着用の事、校則に書いてある!今すぐ、それを脱げ!」長野が無茶苦茶な事を言い出した。
「イヤーン、変なおじさんが女子高生に服を脱げと命令しています!誰か警察を呼んで下さーい!」
「警察なら、とっくにここに居ります」
カングリ警部とアタピン刑事が敬礼して、手錠を振りまわす。
長野は、腰を上げて逃げようとしている。
「現行犯逮捕しますか?」
「まあまあ、その辺で、これ以上は、大人の事情とはいえませんぜ、先生がた」
カングリ警部が、この場を納めてしまった。
うー、惜しいー!もうちょっとだったのに…
「では、参りましょうか?」仙波さんが言う。
「どちらへ」
「もちろん上杉記念病院です。秋彦様、同行してくれますね」
「行きましょう」
「我々は、本部に寄ってから、向かいますので、後程」カングリ警部達は、パトカーで来ていたらしい。
俺と明美ちゃんは、ピンクのロールスロイスに乗った。これに乗るのは、二回目だ。
「しゅっぱーつ!」
オイオイ、遊びじゃあないんだよ。
明美ちゃんはどこ吹く風と、ミニスカをパタパタしている。
「あのう、見えちゃいますよ!」
「大丈夫、ブルマー履いてるから」
「そういう問題じゃあないんです」
「見たい?」
「いえ、そんなわけありません!」
「ツマンナイなー今日はスカイブルーで決めてきたのになあ」
「できれば、御開陳願います」
仙波さん、何言ってるんですかー!
「いえ、ジョークです」
冗談言ってる場合か!
「そんなことより、事の経緯を説明ねがえますか?」
「そんなことよりとは?何だー!」
明美ちゃんがこの狭い後部座席で、足を高く上げる。鼻血が噴き出しそうになる。
「まずは、そこにあるブリーフケースを開けてみて下さい」
ジュラルミン製のケースを開けてみた。中味は、防弾チョッキ二着と、ピストル二丁。
「こ、これは…」
やつぱり、この執事は元マフィアのボスではないのか?
「ワルサーPPKはオモチャです。殺傷能力はございません。
実弾ではないので、貫通しません。敵に、発射すると、電気的な構造で、相手を感電させます。
まあ、一時的に足止めするなら、有効ですね。」
「ここまでしなければならない程、犯人は、相当危険だと言うことですか?」
「私の情報網では、広域指定暴力団、山城組が絡んでいる様です」
「犯人の要求は何ですか?」
「お恥ずかしい事ですが、上杉家のお家騒動で御座います。現院長の景虎様の退陣と弟君の景勝様の院長昇格で御座います」
「そんな下らない理由で、単なる高校生の俺達を巻き込むのですか?」
「全く、その通りですね」
「ふざけんなー!俺はともかく、明美ちゃんをまきこむなー!これは、警察の特殊班級の案件だろうが!」
「金栗警部にはSITを要請してもらっています。、また、上杉家の警護部隊“軒猿”が、バックアップ致します」
「秋彦君、ちょっと手伝って、ブラにひっかかってて…」
明美ちゃんは、上のユニフォームを脱いでて、スカイブルーのブラが丸出しになったまま、防弾チョッキと格闘している。
「まずは、ユニフォームをちゃんと着て下さい。その上に防弾チョッキを着ましょう」
「そんな、恥ずかしい格好が出来るかー!」
あんたが、それを言うか?
「もういい、俺が着せます」
「ちょっとー、変なとこ触んないで、エッチー!」
「ちょっと静かにしてもらえますか?運転の邪魔ですので…」
お前が、言うなー!
「しかし、なぜ?俺が呼ばれたのでしょう」
「秋彦様をご指名なんです」
「俺はヤクザ屋さんに知りあいはいない!」
「いえ、お嬢様のご指名で御座います。今回の交渉役として」
なんだってー!
「仙波さん、ちょっと、試し打ちしていい?」
「この車の中では、御遠慮願います」
明美ちゃんはいつの間にか、ピストルを取り出し、指でクルククル回している。
返しなさーい!俺が取り上げ様とすると、明美ちゃんはワルサーPPKを
ブルマーの中に、隠す。
オイオイ、どうして、物事を複雑化するんだ!
「やつぱ、ロールスロイスには、銀の銃よねー。センスいいわー、なんか、音楽掛けてよ」
「何かリクエストは?」
「ヤっパ、ブラックマジックウーマンかな?サンタナの」
「そういうのは、ありません。キャンディーズメドレーでいいですか?」
「いいわけないだろー!使えない馬鹿執事だなあ!」
明美ちゃん、言い過ぎです!
ガツ!
その時、無線機の様な物がシャックリをした。
「至急至急!軒猿の加藤です。 姫の居場所が分かりましたガツ!」
「どこですか?加藤さん?」
「金城埠頭の第七倉庫です」
「了解しました。加藤さんも向かっていますか?」
「すぐ後ろに居ります、ガツ!」
後方を確認すると、まっ黒なバイク三台がピッタリ後を付けているのが見える。
「どうして、場所が特定できたんですかね」
「ゴホッ、お嬢様には、発信機を付けてあります」
「どこに?」
「それは、ちょっと言えません」
「男の人ってみんなエッチね」
明美ちゃん、ちょっと黙ってて下さい。
「ガツ!ガツ!、至急至急!加藤です。ちょっとマズイことになりました!新手の追跡者が現れました。」
「どういう事ですか?」
「山城組に感づかれた様です、黒いワンボックスカーが付けているのがわかりました」
「困りましたね」
「不徳の致す所です」
「仙波さん、ちょっと、窓開けてくれる?」
「この車は、防弾仕様ですから、締めておいた方が安全ですよ」
ロールスロイスに並行して黒いワンボックスカーが並んで走っている。
スライドドアが開いて、凶悪な連中がこちらに向かってなにか叫んでいる。
相手は運転手を含めて5人。全員がマシンガンを手にしている。
確かに、これは、マズイナ!
「いいから、この天窓を開けて!」
「サンルーフのことですね?」
天窓が開き、明美ちゃんがにょきっと上半身を出す。そして、どこからかともなく、ワルサーPPKを取り出して、ワンボックスカーに向けて、トリガーを引く。カチッカチッ、何も発射されない。
「先ずは、安全装置を外しましょう。」
明美ちゃんから銃を受け取って、
安全装置を外す。
「なにそれ、意味分かんない!」
「いや、安全装置が無いと、赤ちゃんでも銃が撃てる事になっちゃうでしょ」
「えー!だってそんなもでしょ?」
カチツカチツ、「秋彦君!やつぱり弾が出ない!」
明美ちゃんから銃を受け取って、マガジンを引き抜き、装填し直す。更に、スライドして初弾を薬室に装填する。
自動拳銃は、スライドして
初弾を装填する必要があるんです。
「色々と面倒くさいんだ」
だから子供には、持たせられないんです。
もう、持っちゃてるけどね。
敵側が発砲を始めた!
ガガガガ、右サイドの窓に、クモの巣の様なひび割れが入る。
本当に撃ってきた。日本の公道で、カーチェイスの上、まるで、ハリウッド映画の様な銃撃戦になろうとは?言われた通りこちらの装甲には問題無さそうだが。
「ヨーシ!バキューン!」明美ちゃんは意気揚々と引き金を引く!
パーンと間抜けな音がして、運転手がふらふらっと、崩れおちる。
そこへバイク集団が割り込んでくる。全員が漆黒のフルフェイスのヘルメットを被っている。
一人だけ、あきらかに異質な人が混じっている。英国のメイドさんの様な服を着ている。黒いドレスに、白いエプロン。ちょっと、スカートの丈が短いような?
「仙波さん、あの人誰でしょう?」
「あの方は、お嬢様付きの家庭教師兼メイドの六道摩利亜先生で御座います。」
「でも、背中に薙刀をしょってますよ」
「何でも、天道流の師範とか…」女弁慶か?
摩利亜先生は、背中の得物を抜き取ると、「チェイ!チェイ!チェイ!」と、独得の奇声を上げながら、敵側の小銃をはたき落とす。
更に薙刀一閃、タイヤを切り裂いた。ワンボックスカーはコントロールを失い、ゴロンゴロンと横転した。大丈夫なのか?この人達。
「間もなく、第七倉庫に到着します、作戦は?」
「ガツガツ、交渉人が入った後、全ての出入り口を塞ぎます、その上、閃光弾を使用して、突入します!ガツ」
「秋彦様、ブリーフケースの中に、サングラスと耳栓がありますので装着して下さい」
仙波さんの言う通り、グラサンと耳栓を付ける。
明美ちゃんにも、付けさせた。
「イヤだーこんなのダサーイ!」
かなり苦労したが何とか装着した。
そして、第七倉庫の前に到着した。
続く
高円寺秋彦探偵帳 高円寺秋彦 @Kouenj1234
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