第2話 20才女性、失踪す

「シゲさん、ちょっといい?」


直属の上司の名前が山田なのは普通。

直属の上司の階級が警部なのも普通。


しかし直属の上司が女性なのは、普通ではなく“ついにそのときが来たか”だった。

県警本部長に女性が就くことはあったが、それはキャリア官僚さまのお話。

お勉強ができる官僚なんて異世界だと思っている。

だが、ついに現場で直属の上司―課長―が女性の時代がやってきた。


新しい時代の象徴・山田警部の席に行く。

階級・役職が低いオレは直立すべき。

だが、彼女は、いつものようにこちら側にある丸椅子に座るよう勧めて来た。


「新年早々に、こんなのが回ってきちゃって」

ペーパーレス時代を無視し、紙を1枚渡された。


娘が失踪した。探して欲しい―

昨日、両親が署へ来たが―捜索願を受理せず、相談を受けただけ―という扱い。


「シゲさん、どう思う?」


失踪者:笹山七星ささやまななせ(20歳/女性/元会社員/兄弟姉妹なし)


しかし、資料を読んで、すぐに「こりゃ、ダメだ」と判断。

笹山七星は、高卒で就職した会社を自分の意思で辞めていたから。


経過はこうだ。

娘と連絡を取れなくなった両親が慌てて、会社にコンタクトを取り、娘の退職を初めて知る。

会社は“自己都合で辞めて行った。辞めた後のことは知らない”と両親に答えた。


他にもいろいろ書いてあるが、この部分を読んだだけで「自発的失踪」だと思った。


「対応不要かと思います」


「そうよねぇ…。でもねぇ、ご両親、今日も来るって言ってるらしくて」


温暖化の時代。

1月に東京で雪が降るのが、かなり珍しくなってしまった。

窓に目を向けると、真っ白い雪が降っている。

雪の中、わざわざ来るって言うのか。


そもそも…対応した者がはっきりと断ればよかっただろう。

そして山田警部も、なんでこの件をオレに回そうとしているのか、さっぱりわからない。


「まぁ、時期がねぇ…」


K県警か!


”またK県警がやりやがった”と大騒ぎになっている。

20歳の娘が失踪したと、両親が地元の警察署に相談。

対応した者は特に根拠がないのに、“事件性は無い”と判断した。

が、その後、女性はバラバラ死体となって発見しまう。


K県警にとってマズかったのは、両親が警察に相談した段階で捜査していれば、女性を救えた可能性が高かったことだ。

そして、K県警は”事件性無し”とした根拠も示せなかった。

たしかに“事件性がある”という根拠もなかったが、笹山七星と違って”事件性がない”という根拠もなかった。


両親は激怒した。

ネットでK県警を糾弾している真っ最中。

東京都内でないのはさいわいだが、世間にとって東京都だろうが、K県だろうが、同じ警察だ。

今、両親に騒がれたら、時期が悪い。

“事件性無し”の根拠があったとしても、両親を露骨に無視するのは組織にとって危険。


「我々も世間体というのもありますからねぇ」

オレは上司にこう返答した。

もちろん、了承しました、という意味。


我々もザ・お役人ということ。

両親を納得させるためだけに、おじさんが選ばれたわけだ。

経験豊富な刑事が対応している―

そう両親に思ってもらうためだけに。


「悪いね、シゲさん。

で、もう1つ頼みがあるんだけど」


「え?なんでしょうか?」


山田警部は勢いよく右手を上げる。


「マジちゃん、ちょっといい?

あっ!椅子を持ってきて」


ええ?


「失礼します!」


持ってきた椅子に礼儀正しく座ったのは、スタイル抜群の美人刑事だった。


オレのホンネは

“あぁ、困ったことになったぞ”

である。

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