袋小路

翌日。

敦也が学長室に呼び出されて、持っているレコーダーを出しなさいと告げられ、身体検査や持ち物検査をされ、そのレコーダーを没収されてしまう。

さらに、告発計画を企てていたとして、1週間の停学処分を言い渡したのだった。

そのことを敦也が圭に連絡し、もしかしたら俊が何かした可能性が高いと言い、圭は急いで俊の家へと押しかけ、問い詰めた。


「俊、お前………まさか、学園に告げ口したんじゃないよな………?」


呼び出されて早々、俊は早速来たかと、冷めた目で圭を見つめていた。


「………何のこと?」

「とぼけんなよ!俺らの行動が学園側に伝わるなんて、誰かがチクんなきゃわかんねーだろ!」

「………」


言ったら何になると言いかけて、俊は冷たい目を向けたまま無言を貫いた。


「………お前、変わったな。昔はこんな風に、仲間を売るようなことなんてしなかったのに………」

「………」

「全てを狂わせた連中の言いなりは、今でも継続か?どんだけ権力握ってるんだよ」

「………」


脅されて口止めされてることを知らない圭に、俊はこれ以上話すことはないと思って、早々にこの場を去ろうと考えていたが、圭は必死に話を繋ごうとしていた。


「なぁ、何か言ってくれよ………。どうしたいんだよ、お前は………」

「………別に。どうもしようとなんて思ってないよ」

「じゃあ、なんでチクってんだよ!わけ分かんねーよ!」


困惑して叫ぶ圭に、俊は至って冷静に冷たい視線を圭に向けていた。


「もう話すことはない。これ以上、この件には関わるな」


そう冷たく告げて、俊は家の中へと入っていった。


「………くそっ!」


ドカッと圭が塀に拳を打ち付ける音を、俊は扉を内側で聞いた。


(ごめん、圭。でも、これ以上、圭まで巻き込みたくない………)


言い放った言葉とは裏腹に、俊は圭を思っての行動をとった。

しかし、圭を困らせてしまっていることに変わりはない。

部屋に戻りふとサイドボードに目を向け、飾っていた彩希との写真を持ち上げて、そのまま引き出しへとしまった。


―――戻れるなら、あの頃に戻りたい。

―――でも、もう、戻ることは出来ない。

―――出来るはずがない。


そう思って俯くと、ふとスマホにLINEの通知が来ていたことに気がついた。

確認すると章裕からで、内容は先ほど圭から話を聞いた敦也の件。


『反抗した者は容赦しない。例えお前の元友人でもな』

『引き続き、何かあったら連絡しろ』


それを見て険しい表情を浮かべながらも、俊は『わかりました』と返事を送った。

そしてスマホを置く代わりに、小物入れからカッターを取り出した。

カチカチと刃を出して、そのまま左腕に刃を押し当てる。

それを2回3回と繰り返し、何度か切り刻んでカッターを床に落とした。


滴り落ちていく血を見て、崩れ落ちるように座り込む。

もう何度この行為を繰り返しているのだろうか?

思い出せない程に、俊は自傷行為に溺れていた。

逆に、自身を傷つけていないと、精神が持たなくなっていた。


「水瀬………」


俊は小さく囁き、心の中で「ごめん………」と繰り返し謝っていた。


結局それから何も変わらない日々が数日続いた。

しかし、状況は確実に、悪化していく一方だった。


上条学園では、新たに章裕の専属従者が指名されるものの、皆その処遇に耐えきれず体調を崩したりしていた。

さらに、敦也の待遇も、今回のことでカースト順位が落とされて最下位の下僕候補になろうとしていた。


一方、俊もまた 特に目立った変化はないが、圭はまだ何か隠してるかもしれないと、いろいろと探りを入れていた。

放課後に自習用のプリントを職員室へ提出した俊が、帰宅していくのを確認し、それを見計らって、美沙都に問い掛けた。


「俊の奴、何か変わった感じはない?」

「何かって?」

「う~ん………上手く説明出来ないんだけど、何かまだ抱えてるモノが他にもあるみたいに思えてさ。気のせいかもしれないけど………」

「そうねぇ………。私が見てる時は、そんな風には感じなかったけど」

「なんか、アイツ見てると、危なっかしくてしょうが無いって言うか。何て言うんだろう…?ほっとけないって、そんな感じになるんだよ」

「ふふ………。架山君のこと、大切に思ってるのね」

「………別にそんなんじゃ無いけど。でも、アイツの苦しんでる姿は、もう見たくないんだ」

「………そうね。私も職業柄、困っている生徒は放っておけないし。少しでも力になってあげたいって思うわ。」

「俺、俊にまた昔みたいに、笑ってほしかっただけなのにな………」

「………そうね。私も架山君が、心から笑ってくれる日を願っているわ」


そんなことを話し合っているとも知らず、俊はいつも通りに帰宅し、ベッドに寝転がって休んでいた。

敦也の処遇についてあれから何も連絡は無い。

つまりは、まだ下僕候補ではあるものの、完全に下僕になったわけでは無いと言うことだ。


―――大丈夫、敦也ならきっと…。


そう思う自分に気付いて、何を心配しているのか?と、もう一人の自分が問い掛ける。


『何を心配しているの?裏切った相手のこと、許せるの?』


―――許せるかどうか、分からない。でも………敦也なら大丈夫だって思うのは確かで。


『そう思うのは、慈悲の念から?それとも、罪滅ぼしの念から?』


―――それも、分からない。でも………たぶん後悔はしてるんだと思う。

もう一度、やり直せるなら………。なんて、出来るわけないのに…。


そう自問自答している間に、時間は過ぎていって。

夕刻になったところだった。


突然、俊のスマホに着信が入った。

相手は、彩希の母親だ。

転校前に彩希の両親が見舞いに来ていた時に、もし何かあった時に連絡すると番号を聞いていたのだった。

俊は慌てて電話に出ると、「どうかしましたか?」と不安を隠せなかった。


『彩希の容態が悪くなったらしいの。すぐ来られる?』

「………っ!!分かりました、すぐに行きます」


そう言って、すぐに仕度を調えてタクシーを拾い、県境の彩希のいる病院へと急いだ。

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