容態急変
病院へ着くとすぐに受付に確認し、集中治療室へと案内され、彩希の両親と会った。
話を聞くと、一時的に呼吸と脈が弱くなり、安定させるための処置を施しているとのこと。
心配する両親に、どう声を掛ければ良いのか分からずにいると、あとからぱたぱたと誰かの足音が聞こえてきた。
誰だろうと、足音の方に視線を向けると、敦也と圭が走ってくるのが見えた。
「水瀬は?!」
「一時的に、呼吸と脈が弱まってるらしい。…今、詳しく診てもらってる」
「そうか…」
そう言って、圭は「どうか良くなりますように…」と両手を組み、祈りの恰好をとっていた。
敦也の方は、久しぶりに会う俊を見て何か言いたそうだったが、彩希の両親がいる手前どう話を切り出そうかと悩んでいた。
「すこし、場所を変えようか」
俊からそう切り出して彩希の両親に挨拶してから、入り口側の待合所に移動した。
「で?今頃になって………何のつもりだよ、敦也」
「………」
冷たい視線を送る俊に敦也は返す言葉が見つからず、代わりに圭が答えた。
「心配で来たに決まってんだろ!?何でそんな言い方すんだよ」
「圭には聞いてない」
「ごめん………。でも、本当はずっとなんとかしなきゃって思ってた。…水瀬にも、悪いことしたって思ってる」
「………」
「それにお前、………まだあのことが終わってないんだろ?」
「っ………!?」
「………あのことって………?」
「処刑動画を撮られてたのは、水瀬だけじゃないんだ。俊も、やられてるんだよ。あいつらに………」
「それ以上言うな!!」
「………あの動画、まだあいつが持ってるんだろ?それで、今もあいつに脅されてるんじゃねーのか?」
「………動画って。何だよそれ………。お前………なんでそのこと言ってくれなかったんだよ!!」
「………言えるわけ無いだろ!あんなことされて、平気でいられる奴なんて、いるのかよ!」
「っ!!」
「………」
俊と敦也は互いににらみ合い、圭は2人の様子に戸惑っていた。
同時に、こんなにまで感情的になっている俊を見て驚いていた。
それほどまでに、俊の中であのことが重荷になっているのだ。
その事実を知って、圭はやるせない気持ちだった。
それでも、敦也は思いきって本音で想いぶつける。
「お前、こんなんじゃ一生あいつらの言いなりになるんだぞ!本当にこのままで良いのかよっ。………はっきり言えよっ!」
「………だったら。なんで“あの時”突き放したりしたんだよ………。………今更、お前に何が出来るっていうんだよ?」
「………っ」
「もう良い………いらない………っ。友達なんかいらない………っ!!お前なんか、友達じゃねえ!!」
「っ!」
―――バシッ
暴言を吐く俊に、圭は反射的に、頬を叩いた。
「………俊、今のお前、はっきり言って最悪だよ。そんな姿、水瀬さんが見たら、何て思う?」
「………っ!」
「いい加減にしろよっ!お前、こんなにも心配してくれる奴が、友達じゃなかったら何だって言うんだよ!」
「………っ」
「なぁ、もっと素直になれよ。お前も本当は、こんな事終わらせたいんだろ?このままじゃ中條さんも水瀬さんも俊も、それに今学園にいるお前の代わりになってる奴も、誰も救われない!!」
そう言われて、俊は返す言葉が見つからなかった。
―――その後、看護師が俊達を見つけて、呼びに来た。
「水瀬さん、持ち直しましたよ」
その言葉に、皆急いで彩希のところへと駆け付けた。
以前よりだいぶ衰弱しているように見えるものの、微かに動く様子を見て俊は張り詰めていた糸が切れたように、その場に崩れ落ちた。
「…水瀬さんも、必死で生きようと頑張ってるんだ。だから、俊。お前も少しだけで良いんだ。勇気を出してくれ…。俺たちが支えるから、お前から直接、訴えて欲しいんだ」
圭の言葉に敦也もうなずき、俊は躊躇うも目を伏せて悩んだ。
―――分かってる。今一番頑張っているのは、水瀬だ。
賢明に生きようとしている。
なのに、自分は何をしているのだろう………?
このまま、章裕に怯えて一生言いなりになり続けていくのか?
そんなのは………嫌だ!
そう決意し、俊は顔を上げはっきりと意思を示す。
「………分かった。僕も、頑張るよ」
そうして、ふたりに協力することを約束し、学園を訴えることを決めた。
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