【24 春賀スタジオ】

・【24 春賀スタジオ】


 着くとそこは高層マンションといった感じで、セキュリティがしっかりしている感じ。

 一応正面突破として「異世界から来た者です。魔物を送ること、迷惑しています」とマンションを管理している人に伝えると、管理している人は不可思議そうな顔をしていたけども、春賀さんが招き入れてくれるということでエレベーターの扉があいて、自動でその階へ行った。

 着くとそこには春賀さんと思われる人が立っていて、

「まさか異世界からこっちへ来るなんてな」

 と言ったので、もうここはハッキリ言えばいいと思って、

「貴方が送る魔物が強過ぎてみんな迷惑しています。止めてくれませんか?」

 すると春賀さんは私とリュウを部屋に招き入れて、フィギュアなどの資料を置いている誰もいない部屋に連れてきてから、こう言った。

「あの世界は自分の本当の性癖を出せる世界だった」

 何だか語りそうだったので、私もリュウも黙って聞いていることにした。

「あの世界の人たちが迷惑していることは分かったが、罪の意識が低かったことも事実だ。でもこうやって直接やって来られると……そうだな、止めることにしよう。でもその代わり、僕もその世界に行って戻って来れるということだよね。覆面の男からは自ら行ったらもう戻って来れないという話だったが、君たちは多分行き来ができるんだろう? それならばたまに僕もあの世界に連れてってほしい。好きにモノを壊したり、勿論木とか岩ね、そういうモノを壊して発散がしたいんだよ」

「それならいいけども」

 と私は答えつつも、リュウの顔を伺うと、リュウも真面目に頷きながら、

「分かりました。交渉成立ですね。ではこれでもう魔物は出ませんね」

 と言ったところで春賀さんがこう言った。

「ただ、あの世界を自由に眺められている僕だから分かる。あの世界はもっと広い。あの世界の奥地にいる真の魔物を見て描いていた部分もあったからね。もしあの真の魔物が君たちのいる世界の中心にやって来たら大変なことになるだろう」

 でも、

「私とリュウは強いので大丈夫です。そこはみんなで協力もするだろうしっ」

 春賀さんはコクンと首を揺らして、

「ならまあいいんだけどね」

 リュウは春賀さんへ、

「では魔物を送る能力を解除します」

 と言いながら闇の魔法使いの恰好になると、春賀さんが急に目を見開いたので、背筋がゾクッとしてしまうと、春賀さんが声を荒らげた。

「その恰好! めっちゃ良いね! そんなすぐ変身できるなんて凄いよ!」

 あっ、あくまでオタクってことね……。

 リュウは全く動じず、春賀さんの魔法を解除した。

 すぐに春賀さんが「何か使えなくなったのが分かるな」と言ったので、多分そうなんだろう。

 最後に春賀さんからお近付きの印として自分の漫画をくれた。

 それを魔力の中に入れると、それにも春賀さんは好意的に反応し、

「やっぱり魔物を送るよりも向こうの世界の人たちと知り合うほうが良かったなぁ! 覆面の男も人が悪い!」

 と言ってまあ確かに人は悪いんだけどもなと思った。

 春賀さんが生き生きと、

「じゃあ連絡先交換しよう!」

 と言ってきたんだけども、でも異世界間どうやろうと思っていると、リュウが、

「とにかくいろいろ試してみましょう。通信魔石をこの春賀さんに持ってもらって異世界間で通話できるかやってみましょう。通信魔石というのは持って対象者を念じながら喋ると声が向こうに届くという魔石です」

 とリュウが春賀さんに説明したところで私とリュウは一旦異世界に戻って、通信魔石で会話できるか試してみると、なんと普通にラグ無しで会話ができたので、じゃあこれで、ということになった。

 私とリュウは春賀さんの通信魔石をポイントにして異世界転移して戻ってきたので、すぐに目の前にやって来られた。

 春賀さんはウキウキといった感じで喋っていたことが印象的だった。

 まあとにかく悪い人ではなくて良かった。結局画力があり過ぎたということなんだろうなぁ。

 私とリュウは雛子の家に戻ると、雛子が開口一番こう言った。

「この部屋も! 会社も清算するからさ! アタシも異世界に連れてってくれよ!」

 じゃあ、ということで雛子にも通信魔石を持たせて、一旦私とリュウは異世界に戻ることにした。

 雛子と他に喋っていたことは基本異世界で生活して、コスプレイベントにだけは顔を出そうという話だった。

 結局コスプレはコスプレで好きなのだ。

 雛子も私も。

 異世界に戻ってきた私とリュウ。

 まあ一旦は解決といった感じだ。

 春賀さんが世界の奥には、みたいなことを言っていたけども、まあその時はその時かなと思った。


【エピローグ】


 私とリュウの家の隣に二つ家ができた。

 雛子の家と春賀さんの別荘だ。

 あの私のファンだった子は結局元の世界に戻すことにした。

 あの子はもっと頑張って地球でプロの漫画家を目指すらしい。

 神官は牢獄に入り、まあ部下たちに世話されて楽しく生活しているんだろうなと思っていたけども、どうやら部下たちは神官のことを実は嫌っていて、結構しっかり罪人をやっていると風の噂で聞いて『ざまぁ』とは思ってしまった。私は口が悪いので。

 とは言え、リュウの前では私の口は軽やかに甘々。

「梨花、今日も仕事頑張りましょう。しょっぱい系アイスクリームくらいの汗をかきましょう」

 と言った農夫の恰好に着替えたリュウを私は後ろから抱き締めた。

「どうしたんですか? 梨花」

「何かこうしたくなっただけ!」

「それなら俺だってしたいことがありますよ」

 そう言って私と正面を向き合ったリュウが前からハグしてくれた。

 リュウは小さい声で、

「ずっとこうしてたい」

 と言ってきて、何かキュンキュンしてきた。

 いや、

「仕事しないとダメだよっ」

 と言っておくと、

「知っているよ。梨花にカッコイイところ見せたいからね」

「いつもカッコイイけどね」

「梨花はいつも可愛いね」

「それも知ってる」

 そう言って笑い合った。


(了)

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元コスプレイヤーが新婚旅行しているだけですが? 伊藤テル @akiuri_ugo5

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