【23 地球に帰還】

・【23 地球に帰還】


 私とリュウは私が住んでいたアパートの前に立っていた。

 リュウは周りを不可思議そうに見渡していた。

 確かにこういう遠くにビルディングなんてあの異世界には無いもんなぁ。

 私はあまり浮かないように、農夫の服に着替えたところで、あんまり普通の服ってストックに無かったなと思った。

 コスプレかコスプレじゃないかみたいな、変なローランドだったから。

 一つ気になったことがあり、私は自分の住んでいた部屋へまず行くことにした。

 でもその前に、

「リュウ、あのビジネスマンの服というものに着替えてほしい。あれに着替えてくれれば周りの環境から浮くことはないから」

「分かった。そうする」

 そう言ってビジネスマンの服に着替えてもらった。

 ビシッとしたスーツにキッチリしたネクタイ、そして私の趣味で伊達メガネを掛けてもらっている。

 私の服に普通の服は無いけども、リュウにはいろんな服を着せて遊んでいたので、リュウはこの世界に馴染む服をいっぱい持っている。

 その中でもやっぱりスパダリと言えば、スーツでしょ、と思っている。

 さて、

「まずは私が住んでいた部屋へ行こう」

「分かりました。そうしましょう」

 部屋に行けばネットだって繋がるし、とか思っていたんだけども、既に空き室になっていた。

 というか荷物は? エイリーの服とかどうしたんだろうか……誰かがもう処分しちゃったのかなと思って、ちょっと落ち込んでしまった。

 いや今はリュウの作ったエイリーの服があるけども、やっぱり私が仕事終わりに家でちまちま作っていたほうにも執着があって。

 まあそれはもう仕方ないか、と思って、頼れるところに頼ることにした。

 勿論毒親ではない。

 私の唯一のコスプレ仲間、雛子の家だ。

 よく雛子の家で合わせとかしていたなぁ、と思いながら、私は雛子の家へ行くことにした。電車……あっ、お金無いわ。

「リュウ、これから私についてきてほしい。風の魔法使いの服で」

「分かりました。と言うと梨花はチャイナドレスですね」

「そう! 変身したらすぐ行くよ! 恥ずかしいからね!」

「恥ずかしがる必要無いですよ、梨花はすごく美しいですからね」

「そういうことじゃないの! そういう社会じゃないの! ここは!」

 私がつい大きな声でそう言ってしまうと、

「いろいろあるんですね、分かりました。素直に受け入れます。今はまず先を急ぎましょう」

 と答えてくれてホッとした。

 でも実際好きな服が着れない世界って堅苦しいなぁと思った。

 私はエイリーの服に着替えて神速モード、リュウも神風魔法でついてきてくれている。 

 というか普通に魔法使えちゃっているんだと思ってしまった。

 まあ描いているヤツというのも魔法で描いて送っているわけだから魔法使えるわけか。

 私は速攻雛子のアパートに着き、階段も歩かず、飛ぶように部屋の前に立った。

 さて、今は何曜日というか何時だ……? そうだ、全然時計とか見てこなかった、と思ったその時だった。

 目の前の扉がバンと開いて、なんと制服姿の雛子が現れたのだ。

「「うわぁぁぁああああああああああああああああああああああ!」」

 私も雛子もデカい声が上がってしまった。

 すぐさま雛子は私であることに気付いたみたいで、

「梨花! エイリーのコス! どしたんっ? えっ! えぇっ! えぇぇぇえええええええええええええええ! 急にアタシの家で合わせっ? 鬼神騎士のリュウとっ? どゆことっ?」

 と私とリュウの顔を交互に見ながら、慌てている。

 説明したい気持ちは山々だけども、

「まず匿って!」

 と言うと、雛子は、

「勿論! 梨花のことはいくらでも匿うわ!」

 と言って私とリュウを部屋の中に入れてくれた。

 雛子は肩で息をしながら、

「まずどしたんっ? いやいやいや! まず今日はリモートワークにしてもらうわ! それから! 待ってて! 連絡入れる! 適当に座ってて!」

 相変わらず雛子が真面目に社会人やっていることに感動しながら、私は部屋の奥でリュウと共に座ることにした。

 リュウは小声で、

「友達?」

「唯一のね!」

「じゃあ大切な人ですね」

 と微笑んだ。

 そう、でも今はリュウという大切な人が増えて。

 いやそもそも同じ村に住みみんなも大切で、今の私には大切な人がいっぱいだ、と思ったところで雛子がこう言った。

「いやいやいやいや! イケメン過ぎだろ! えっ? どういう状況っ! 何があったんっ?」

 私は深呼吸してから、

「嘘だと思うだろうけども私を信じて話を聞いてほしい」

「もうこの時点で嘘っぽいから大丈夫! 全然何でも聞くし!」

 この時点で嘘っぽいって私がリュウのようなイケメンと一緒に居るということ? まあそうだけど、と思いながら喋り出した。

「私は異世界転移して、このリュウ似のリュウと出会って冒険していたんだけども、魔物がどんどん強くなってきて、その魔物を送り込んでいる人間が地球に居るみたいでその人物に会って止めたいんだ」

 雛子は固まった。

 雛子死んだ? と思っていると、リュウが喋り出した。

「俺が梨花のパートナー、リュウです。よろしくお願いします。まず今から梨花がその魔物の絵を描きますので、その魔物の絵を描きそうな人を一緒に調べてほしいんです」

 私は正直どうやって調べればいいか分からなかったけども、リュウがそう言って正直『おっ』と思った。

 そうか、絵が上手いほうである私が魔物の画風をトレースしながら描いて、それを雛子に見せて、さらにネットとかで上げて、ネット民から調べてもらえばいけるということか。

 リュウはネットまでは考えていなかっただろうけども、一気に筋道が浮かんで、さすがリュウだなぁと感心していると、

「まず梨花のパートナーって何?」

 という結構どうでもいいことに突っかかったので、どうしようかなと思っているとリュウが、

「梨花と真剣にお付き合いしています」

 と言って頭を下げて、何か改めて言葉にされると照れるなと思っていると、雛子が、

「それは、いけませんねぇ……」

 と言って雛子は黙った。

 何がいけないんだよ、いいだろ別に。

 でもリュウは何か言ってはいけないことを言ってしまったのかと思って、おどおどし始めたので、

「大丈夫! 雛子の嫉妬!」

 と言いながら私はリュウの肩を叩いた。

 するとリュウは、

「嫉妬されるようなものでは御座いません」

 と言ってまた頭を下げると、雛子は大きく口をあけて、

「そういうところがいいんだなぁ!」

 と叫んだ。

 何だ、コイツ、話が進まないなぁ。

 まあいいや、勝手に進めよう。

「じゃあ絵を描くから何か思い当たる人あったら言ってね。まあどうせネットに上げてネット民に聞くことになると思うけども」

 私は魔力の中に入れていた紙とペンを出すと、雛子が、

「急に出した!」

 と言ったので、あぁなるほど、こういうことかと思って、私は雛子の目の前で、ビキニアーマーに早着替えの魔法を使ってから、

「私って魔法使えるんだぁ」

 と言ってみると、雛子が、

「ズルい……」

 と言って俯いて、何だか泣くような素振りを見せたので、何だろうと思っていると、

「うちだって毒親なのに! 恵まれていないのに! 梨花ばっかり異世界行ってズルい! アタシだって異世界転移してやるんだからな!」

「でもコスプレとかできなくなるよ」

「いやいやいや! 梨花がえっちな服着てるじゃん! 今まさに!」

「まあこういう服を着ていても、誰からも何も言われないけどね」

「最高じゃん! 好きな服を着させろよ! エロい連中からとやかく言われずにさ!」

 私は農夫の服になってから、

「こうやって農業する村だけども来る?」

「スローライフ付きぃぃいいい? 最高過ぎるじゃん!」

「全然楽しいだけだよ、魔法で農業するから」

「やらせろ!」

 そうヨダレをだらだら流しているような表情で顔をこっちへひん剥いた雛子。

 これは楽しくなってきたぞ、と思いながら、私は絵を描くことに集中した。

 まず、なんというか、青年向けみたいなハッキリとした画風があって、と描いたところで雛子がポツリと口をついた。

「春賀さんだ」

「春賀さん?」

 私がオウム返しすると、雛子は頷きながら、

「そう春賀孫市さん。今人気のプロの漫画家だよ。その人は春賀スタジオとか言って住所も調べたら出てくるから行ってみればいいよ」

 私は雛子からお金と服を貸してもらって、リュウと二人でその調べた住所へ向かった。

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