【22 反芻】

・【22 反芻】



「これは明らかなんだ! オマエがこの世界に来てから! 魔物が強くなっている! このままじゃ思った以上に被害が出る! それは避けたいんだよ!」

「ワシたちの占い師はオマエに魔物増量の手掛かりがあるという占いが出た。だから梨花を始末しに来たんだ。さすがに魔物の量が多すぎるんだ。どうにかしないといけなくてな」

「コイツで間違いないじゃん! 魔物増量は困るんだよ! せめて元の魔物数に戻せ! 予定が狂う!」



 思った以上に被害が出る? じゃあ思った通りなら自分の思惑通りということ?

 さすがに多すぎるの”さすが”って何? ちょっとくらいの多さは許容範囲ということ?

 予定が狂うって、魔物が一定の量だと予定通りってこと?

 私はモヤモヤしていた点と点は線になった。

「オマエかい!」

 デカい声が出て、ちょっとだけリュウにウケた。

 でも神官は戦々恐々としている。

 当たり前だ、当たり前だというかもうコイツが元凶ってことじゃん。

「知らない……ワシは何も知らない……」

 リュウは溜息をついてから、

「とは言え、今この子を眠らせたのは貴方ですよね。俺は魔力には敏感なんです。弱い弱い眠らせる魔法を放ちましたよね? あの程度の、本来なら誰にも感知されないほどの魔法で眠るような相手はもう怖くないので、この子は俺と梨花が預かります」

「ダメだ……それはダメだ……」

 私はこの瞬間、ある手が浮かんだ。

 だからそれをリュウに伝えることにした。

「リュウ、今から私が描く服をすぐに作ってもらうことってできる?」

「素材はいくらでも持っているから何でも作れるよ」

「じゃあ描くね!」

 私は紙とペンで絵を描き始めた。

 基本的にスーツなんだけども、この小道具が大切で、漫画でも何度も何度も見たこのアイテム。

 そう、警察手帳だ!

「私はこの服を着て神官を吐かせる!」

 リュウはすぐさま服を作って、私は誰にも見られない場所に移動して着替えた。

 イメージは交番の警察官ではなくて、刑事課の警察官だからスーツが基本で。

 私は神官に迫りながらこう言った。

「オマエがやったんだろ! オマエが覆面の男なんだろ!」

 すると神官は怯えだして、下を向いた。

 どうやら警察官の魔力が私には宿っているらしい。

 ここはリアル志向で、かつ丼とか言わずに、いくことにした。

「もうネタは上がっているんだよ! さぁ! 吐け! 今吐けばまあ情状酌量もあるからな!」

 その情状酌量の言葉に反応した神官。

 ここが攻め時だと思って、

「ちゃんと吐けば死刑なんてことはない! 多少は刑に服すことになるが、まあちゃんと数年したら生きて帰ってこれるだろう。何、この牢獄でちょっと休むだけだよ。この牢獄の管理もそのままオマエの部下にやらせる。だから事実上、ちょっと自宅待機しているだけだよ。さぁ、吐くんだよ……吐くんだよ!」

「分かりました! 吐きます! ワシが覆面の男でした!」

 言った! 認めた! でもここからだ!

「何が目的だったんだ! 目的を言え!」

「目的は、自分の思った通りの軍団が、思った通りの展開をすることが好きで、それが見たくてこんなことをしていました……」

「つまり自分が作った映画のような気持ちだったんだな、生身の人間を使った即興ストーリーの監督ってところか」

「はい! それが楽しくて! だから要は役者を異世界転移で補給して! 全部ワシがやっていると思うと快感が込み上げてきて!」

「じゃあ今の魔物を送っているヤツにもそれを要求すればいい! ちょうどいい魔物にしてくれと言えばいい!」

 するとまた黙ってしまった神官の近くの壁を私が蹴ると、また神官が喋り出した。

「それが……コイツの時もそうだったんだが、一度その能力を付与させると、ソイツ自身にも魔力が宿ってワシより強くなってしまうんだよ……コイツも今のヤツもあんまり言うことを聞いてくれなくてな……何で絵を描くヤツはみんな自己中なんだよ……」

「それは人それぞれだろ! じゃあ逆にどうやって今回コイツからその能力を取り上げたんだよ!」

「牢獄に入れられて意気消沈していたからだ……向こうの気力次第といったところだ……」

「じゃあ今描いているヤツを意気消沈させられれば、能力を解除できるということだな!」

 私は語気を強めてそう声を上げると、それに反比例するかのように神官は小声で、

「でも……その今描いているヤツはコイツ以上に、自分が作った魔物が街を破壊していくことに興奮していて、多分一筋縄ではいかないと思うぞ……」

「その今描いているヤツはどこにいるんだ!」

「オマエがいた、地球というところだ」

「また地球かい! じゃあどうやったらその付与した魔力を取り上げることができる! オマエしかできないのか!」

「呪い解除魔法を使える者なら誰でも可能ではあると思う……」

 私はリュウのほうを見ながら、

「リュウは使えるっ?」

「闇の魔法使いになれば可能です」

「よしっ! じゃあ神官! 空間を移動する魔法使えるんだろっ? それで私とリュウを移動させろ!」

 と言ったところでリュウから待ったが入った。

 手を伸ばして物理的に止められた。

 何だろうと思っていると、

「こういう大切なところを神官には任せられません。だから……神官はまず服を脱いでください」

「急にBLっ?」

 と声を上げてしまうと、リュウは不可解そうな顔をしながらこう言った。

「えっ、いや、いいえ、神官の服の構造を確認して、その通りに服を作ればきっと梨花も空間移動魔法が使えるはずです。ここからは神官に頼らず、自分たちでいきましょう」

「確かにそうだ……じゃあ神官は脱げ!」

 と命令すると、その命令のまま脱ぎ始めて、従順過ぎてちょっとキモイなぁ、と思った。

 その神官の服をしっかり細かにチェックしたリュウはまた服を作り出して、神官の服と同じ服を作り上げた。

 そもそもリュウがそのまま神官の服を着てほしいと言わなくて良かったなぁ、と胸をなで下ろしていた。

 私はまた陰で着替えて、神官の服になると、何かいろいろできるような気がした。

 そっか、私が空間移動魔法を使えれば、あの戻りたい同盟の人たちも戻せるじゃん。

「じゃあもう善は急げね! リュウ! 一緒に行こう!」

「分かりました、梨花、よろしくお願いします」

 何か異世界転移するぞって感じに念じれば、いける気がしたから念じた。

 そして私とリュウは私の空間移動魔法で地球に戻った。

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