雨上がり

咄嗟に傘を差しだした。

「ごめんね。湊人を試すような事やって。やっぱり優しくて安心した。」

その声は記憶の中の声だった。昔に戻ったような感覚で嬉しかったが同時に悲しくもあった。落とした傘をとりまた傘を差しなおした。

「理由も言わないで終わらせるなんて酷いことをやった。深い傷を負わせてすまなかったと思っている。」

「夢にたまに出ちゃってさ、終わっていると思っているのに思い出しちゃってでも直接聞けなくて回りくどくなって嫌だったでしょ。私も悪かったと思っている。言ってもらって嬉しかった。今日はありがとうね。」

仮面を外してみた笑顔は過去のものだった。そして自分も少しだけ顔がほころんでいた。そうして雨がやみ始めていた。少しだけ昔に戻れていた気がしていつのまにか黒い記憶が無くなっていた。

「傘いらなくなったね。」

そうして紫苑を見送った後に帰路をたどった。帰って家に着くと重苦しくつけられていた鎖はなくなっていたように思えた。

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過去の糸 楓 紅葉 @sperk

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