第9話 火葬場のある町 4
澄花とカフェで別れた後、不二崎は直ぐに営業所に戻り編集長に直談判したが、通らなかった。
「会社としては無理だが、個人で行くなら問題ない」と編集長は柔らかく言葉を選んでいる風だった。
つまり、組織としての指示ではなく責任を負えないが、不二崎が個人的に見学――潜入するなら良いと言っているのだ。
「責任は私が負えと」
「そうだ。ただしあくまで見学だ。その先はお前が取材しようが何をしようが知ったこっちゃない。長期休暇として処理される」
「わかりました」
不二崎が即答したので編集長は驚いた。
「その代わり、あの火葬場の悪事を暴いてみせます」
不二崎はそう言い残し、女子高生の調査録を全てカバンにしまい会社をあとにした。
※
三好澄花は不二崎透子と別れた後、しきりに背後が気になっていた。時刻は17時30分。まだ日の入りではないが、通行人は少なくなる。
通学用のパンプスが地面に擦れる音が妙に耳につく。どこか肌寒いのは、緊張の糸が張っているからか。
――やっぱり送ってもらえば良かった。
この道は通学路ではないが自宅までそんなに遠くは無い。昼間は見慣れた道だが、人通りの少ない逢魔ヶ刻がこんなに心細いとは。
いつの間にか他の通行人の姿が見えず、話し声もせず、虫の声さえ聞こえなくなった。
狭い道ではなく車が1台通れる幅だが、すれ違う車さえ見なくなった。
間もなく陽が落ちる。
パンプスの音が耳に残る。
コツコツコツコツコツ。
コツコツコツコツコツコツ。
コツコツコツコツコツコツコツドッドッドッ。
思わず振り向く。
今の音は車のエンジン音だった気がする。
後ろから歩いてくる人も車も来ない。薄暗い先に寂れた道が続いているだけである。
――あれはなんだろう。
道の橋の一際太い電柱の陰に。
ちょうど肩幅が狭い人間なら隠れられそうな太さの電柱に。
日陰のせいか、真っ黒い男の人影が立っていた。
澄花はいてもたっても居られなくなって、早足で駆けた。早くこの通りを出なくては。
「誰か助けて!」
いつの間にか陽が落ちて道の先が暗闇になっている。街灯もない。ここは住宅地の裏だ。
十字路に差し掛かったところで突然、背後からけたたましい発進音とタイヤの音がした。
振り向く間も道を曲がる間もなく、背後から猛スピードで黒塗りの車が、一切の減速なく澄花に追突した。澄花の体はフロントガラスに食い込み、車体の上部に乗り上げた。そしてその勢いを失うことなく地面に叩きつけられた。
澄花の華奢な体は、容赦なくそのスピードによるエネルギーを受け、耐えられず、手足は曲がり意識は無かった。
倒れた澄花の側に黒塗りの車が停まり、後部座席から男がひとり出てきた。両腕に包帯をしており、その下からは青い崩れた皮膚が見える。鱗のような痣にも見える。
そこへ、先ほど電柱の陰にいた男が駆け寄った。黒のスーツだが髪色は茶髪で、両耳たぶにピアスをしている。その男の左頬にも、同じような青い鱗の痣があった。
「何してる! 殺してもいいが傷はつけるなって言われた筈だぞ!」
ふたりの男は聞いたこともない言語で短い口論の末、澄花の遺体をトランクに押し込んだ。
そして何事も無かったかのように車は発進し、暗い通りには再び静寂が訪れた。
火葬場のある町 沙海 @Ryota_Sakai
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