第29話 過去
「どうだ!見たか若造!ワシの真の実力を!!」
高揚した顔でガハハと笑う怒真利。
「ああ!見た見た!凄いな!!」
子供のような好奇心に満ちた表情の武流。
「あれが怒真利師団長の真の実力……」
これまで思っていた怒真利の力よりも数段レベルの違う神力を見せられて戸惑っている盆城。
「結局何がどうなっとったんや?怒真利はんぴんぴんしとるやないか……」
「本人は少し寝ていた、とのことだが……」
怒真利の復活の意味が解らず頭を捻っている愛と猫野瀬。
「Zzzzzz……」
相変わらず寝ている渚と——
「俺たち……助かったのか……」
怒真利のことよりも助かったことに安堵している第一師団員たち。
各々の感想は違っても、ようやくがしゃどくろと狂骨連合軍との戦いは終わった。
終わってみれば大した被害も出ておらず、第一師団からすれば見事な勝利だったといえる。
多くの戦闘経験も積め、死んだと思っていた怒真利も無事。これ以上望みようのない結果。
しかし元を辿れば怒真利の自己中心的な判断が原因で起こった窮地だったわけで、ここで起こったことを正直に上に報告した場合、怒真利が叱責、もしくは何らかの処分が下されるのは間違いのないことだった。
——さて、何と言って報告したら良いものか……
一難去ってまた一難。
盆城の悩みの種は尽きないのである。
「まあ、お前には団員たちも助けてもらったようであるし、今回は引き分けということにしておいてやろう!ガハハハハハ!!」
笑いながら武流の背中をバンバンと上機嫌で叩く怒真利。
「え……あ、そうか。うん、分かった」
そもそも勝負していた認識も無かった武流だったが、何となくその場の雰囲気に流されてそう答えた。
「あれ?何かさっきまでと武流はんに対する態度変わってへんか?村で話していた時は敵意というか敵対心というか嫉妬丸出しやったのに、何や急に友達みたいに接しとる気が……」
「ああ、あれは怒真利師団長が武流殿のことを認めたんだろう」
「え?でも怒真利はんは寝てたんやから、武流はんが戦こうてるとこ見てないんやない?」
「もしくは、機嫌が良すぎてそのこと自体を忘れているかのどちらかだな」
「絶対にそっちの方やわ……」
「まあ何にせよ、あの人は一旦距離を詰めたら優しいからな。もう武流殿を敵対視することは無いだろう」
「まあ、愛さんがそう言うならそうなんやろうけど」
「へえ。愛ちゃんはあの人のことをよく解ってるんだねえ?」
すぐ背後から急に声が聞こえて跳び上がるほどに驚く二人。
振り返った先にいたのは渚。
本当の少年のような笑顔を浮かべて二人のすぐ傍に立っていた。
「ふぅ……驚かせんといてくださいよ……」
「ああ、ごめんごめん。驚かせるつもりはなかったんだ。で、愛ちゃんはあの怒真利って人の事詳しいみたいだね。それにあの人の愛ちゃんに対する態度。あれれ?もしかして二人って?」
訂正。
少年のような笑顔ではなく、普通のエロ親父のようないやらしい笑顔を見せる渚。
「え!?——あ!いやいや!違います!違います!私と怒真利師団長はお父様が思っているような関係では決してありませんよ!!」
「そんなに必死に否定するところが怪しいなあ?ちょっと歳は離れてるみたいだけど、愛があれば歳の差なんて、ね?」
「だから違いますって!!」
「渚はん。楽しそうに愛さんイジメてるところ悪いんやけど、ほんまにそういうんとはちゃうねん」
「え?違うの?」
「だからそう言ってるでしょう!」
「だってどうみてもあの人、武流と愛ちゃんの関係に嫉妬してるように見えたから。それに愛ちゃんだって親しそうな距離感で話してたよ?」
「まあ、そう見えたんもあながち間違ってないんやけどな」
「どういうこと?元彼とか?」
「もっと違います!!怒真利師団長——あの人は……」
愛は武流と笑い合っている怒真利へ優し気な視線を向けながら続けた。
「あの人は、私の
今より30年前。
愛がまだ14歳だった頃の話。
当時愛の住んでいた町は、比較的魔の者の出現が少なく、他よりも安全とされていた。
退魔隊の中隊も滞在しており、その時まで大きな魔災害が発生したこともなかったのだ。
しかし——
——パリン!
全員が寝静まっていた真夜中の住居にガラスの割れるような音が響いた。
「——何だ!?」
愛の父親はその音に飛び起きると、隣で寝ていた妻も同様に目を覚ましていた。
「あなた……今の音は……」
「……お前は愛を起こして家を出るんだ。そしてすぐに退魔隊に連絡しろ」
何が起こったのかを瞬時に判断した父親は即座にそう決断した。
「でも……」
「大丈夫。俺も一緒に行くから」
その表情から夫の考えを感じ取った妻は静かに頷いた。
「……行くぞ」
耳を澄ましながら、ゆっくりと部屋のドアへと近づく。
そしてドアに耳をあて、廊下の様子を慎重に探る。
何も物音は聞こえない。
近くに誰の気配も無いのを確認し、音を立てないようにドアを開け、隣の部屋で眠る愛のところへ向かうように視線を送る。
聞こえてきた音はリビングの方からだった。
それならば、このまま部屋の窓から庭に出れば安全なはずだ。
そう考えた父親は、妻の後を追って愛の部屋へと向かう。
このまま何にも遭遇しなければ一緒に逃げ出せる。しかし、万が一の場合は——
——ガチャ。
二人が廊下に出た瞬間、愛の部屋のドアが開いた。
昼間なら気にならない程度の物音。
しかし、静寂の闇に包まれた家の中では住人の存在を示すに十分足りえる大きさだった。
リビングへと続く廊下の奥から何かを引きずるようなズズズズッっという音が聞こえてきた。
「走れ!!」
彼は妻にそう指示を出し、自分は廊下の中央に仁王立ちになる。
妻は弾かれたように駆け出し、部屋から不安そうな表情で顔を出していた愛の手を引っ張って部屋の中へと入っていく。
——ズズズズズッ……。
部屋のドアが閉まると同時に猛然と何かが暗闇の中を父親目掛けて突進してくる。
「ハアァァァ!!」
右腕に意識を集中して神力を集める。
敵の正体は不明だが、カウンターで一撃を加えて、その隙に自分もこの場から離脱する。
餓鬼程度であれば倒すことが出来るが、それ以外なら時間稼ぎ程度の神力しか授かっていないことを彼は理解していた。
ぼんやりと腕から光が溢れ出し、彼の周囲を僅かながら照らす。
すでに自分の存在がバレているのだから隠れる必要はない。
這いずるような音がすぐ近くまで接近し、薄明りの中を飛び掛かってくる影が見えた。
「らあぁぁぁぁ!!」
その影に反応し、渾身の拳を放つ。
思っていたよりも柔らかい手応えが拳から伝わり、影は床に叩きつけられるようにして転がった。
しかし彼は見た。
拳が当たる瞬間——彼を襲ってきた影が何だったのかを。
それは人間。
それも頭部を食いちぎられたような無残な状態の亡骸だった。
何かを引きずっているかのように聞こえていた物音は、魔の者の這いずる音などではなく、真にこの死体を引きずっていた音だったのだ。
「——なっ!?」
次の瞬間、突如後ろから何かに羽交い絞めにされる。
それは浅黒い四本の長い毛の生えたかぎ爪。
——土蜘蛛か!?
彼はその足を見て敵の正体に気付いたが、土蜘蛛の八つの複眼は彼をすでに餌として捉えていた。
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