第12話 記憶の交差点
文化祭当日。校内は人で溢れてた。俺たちのクラスは“記憶の迷路”って展示をやってて、廊下に写真や日記を並べて、来場者に“誰の記憶か”を当ててもらうっていう企画だった。
原案はカイだ。カイが、これをやれば何かわかるかもと言う理由で提案してくれた。
それが、うまく行って実行することになった。
俺は、理科室で見つけたあの写真を展示の一角に紛れ込ませた。誰も気づかないと思ってた。
でも、昼過ぎ。ひとりの来場者がその写真の前で立ち止まった。
「これ……私の兄が撮ったやつかも」
声を聞いて、俺は振り返った。そこにいたのは、レナだった。
「兄って……」
「亡くなったの。2年前。理科室で事故があって」
俺は言葉を失った。
「兄は、記録を残すのが好きだった。写真も、日記も。家にさ、日記何十冊もあって。カメラも常備してて、写真も何百枚もあってさ。それを。一部学校に残してたって聞いたことある」
カイが近づいてきて、写真を見つめる。
「記録の残滓だ。誰かの強い記憶が、場所に染みついてる。理科室にあった理由、これで繋がったな」
ミナは写真を見つめながら、ぽつりと言った。
「夢で見たことある。兄がこの場所で、誰かを見てた」
俺は背筋が凍った。俺も、夢でこの風景を見た。
「記憶が交差してる」
カイが言った。
「兄の記録が、俺たちの夢に混ざってる。たぶん、事故の瞬間の記憶が、強すぎたんだ」
レナは必死で涙をこらえながら笑った。
「兄は、最後まで誰かを守ろうとしてた。夢の中でも、誰かの背中を追ってた」
俺は写真の中の後ろ姿を見た。あれは、レナの兄だった。
そして、俺の夢に現れた“視線”の正体も。
「君の記憶は、君だけのものじゃない」――あの声は、レナの兄のものだった。
記録の残滓は、俺たちに“何か”を伝えようとしていた。
文化祭の喧騒の中で、俺たちは静かにその意味を受け取った。
記憶は、繋がっている。
そして、まだ“誰か”が、夢の中で待っている。
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