第13話 記憶の底にあるもの
文化祭が終わった。人の波が引いて、校舎に静けさが戻った。俺たちは展示の片付けをしていた。“記憶の迷路”は好評だったらしい。だけど、俺の頭の中は、ずっとざわついていた。夢の中の視線。妹の筆跡。記録の残滓。全部が繋がりそうで、繋がらない。
「レン、これ見て」
ユウが一枚の紙を差し出した。展示の中に紛れていたらしい。そこには、妹の名前と“協力者”という肩書き。そして、“記録の番人・識別コード:K-01”という文字。
「記録の番人……?」
俺は呟いた。カイが隣で頷いた。
「記録管理局には、記録を守る存在がいる。人間じゃない。記憶そのものが意思を持って動くんだ」
俺は背筋が冷えた。夢の中で感じた“視線”。あれは、記録の番人だったのか?レナが言った。
「妹さんは、記録の番人に接触してた可能性がある。協力者ってことは、記録を残す側にいたってこと」
俺は、妹の笑顔を思い出した。あいつは、俺に何も言わずに死んだ。でも、記録の中で生きてる。俺が笑えば、記録が動く。
「でもさ、笑いすぎると記録が崩れるって言われたよな」
ユウが言った。
「それって、どういう意味なんだ?」
カイが答えた。
「感情が強すぎると、記録が暴走する。記録の番人は、感情のバランスを監視してる。お前の笑顔が強すぎると、妹の記録が壊れる可能性がある」
俺は言葉を失った。笑えば守れる。でも、笑いすぎると壊れる。
「じゃあ、俺はどうすればいいんだよ」
レナが静かに言った。
「笑うことを、選び続けるしかない。でも、ちゃんと“誰のために”笑ってるかを忘れちゃダメ」
その言葉に、胸が締めつけられた。俺は、誰のために笑ってる?妹のため?自分のため?それとも、記録のため?
その夜、夢を見た。妹がいた。笑っていた。でも、その後ろに、黒い影が立っていた。顔はない。声もない。でも、確かに“見ていた”。
「君の記憶は、君だけのものじゃない」
あの声が、もう一度響いた。
目が覚めたとき、俺は確信した。記録の番人は、俺の感情を見ている。俺の笑顔を、監視している。
そして、妹は――その記録の中で、まだ何かを伝えようとしている。
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