第3話 笑えって言ったのは、アイツだった

放課後の教室は、静かだった。戦いの痕跡が、そこかしこに残ってる。割れた窓。焦げた床。血の跡。でも、誰も死ななかった。俺が笑ってたから。


「空木、今日も無理して笑ってたな」


親友のカイが、隣の席でぼそっと言った。俺は肩をすくめて返す。


「無理してねぇよ。俺は、笑ってるだけだ」


「……それが無理してるって言うんだよ」


カイはそれ以上言わず、教室を出ていった。俺は一人、机に突っ伏して、ポケットから写真を取り出す。


妹――空木ミナ。笑顔のまま、もう動かない。

あの日のことは、今でも鮮明に覚えてる。……黒い英雄、知らないわけじゃねーんだ。知らずにいたかっただけで。


 ――3年前。

“黒い英雄”が世界を救った日。 でも、同時に、俺の世界は壊れた。


街が崩れ、異能が暴走し、ミナは瓦礫の下にいた。 俺は泣き叫んで、助けを求めた。そのとき、誰かが俺の肩を叩いた。


「泣いてる暇はない。笑え。お前の異能は、それで強くなる」


黒いコートを着た男。顔は見えなかった。でも、あの声は、今でも耳に残ってる。


「笑って、守れ。お前が笑ってる間は、誰も死なない」


その言葉に、俺は笑った。涙を流しながら。そして、ミナを――守れなかった。


それ以来、俺は笑うことをやめなかった。無理してでも、笑う。嫌だけど、やんなきゃいけない気がして。

それが、俺の戦い方で、俺の生き方だ。


――そして今。

“黒い英雄”の残党が現れた。

“黒の記録”を探している。


あの男と、何か関係があるのか?俺に異能の使い方を教えた、あの声の主は――

すると、俺のケータイが震えた。


「空木、屋上に来い。話がある」


カイからのメッセージ。俺は写真をしまって、立ち上がる。


屋上には、カイともう一人――見知らぬ少女がいた。黒い制服。銀色の髪。瞳は、どこか遠くを見ていた。


「彼女は“記録管理局”の使者。“黒の記録”を知ってる」


俺は目を見開いた。少女は静かに言った。


「あなたの笑いは、あの人の遺志。……“黒い英雄”は、あなたに託したのよ」


その言葉に、俺の心臓が跳ねた。あの声。あの言葉。俺の異能の始まりは――“黒い英雄”だった。


俺は、もう一度笑った。この世界の真実に、少しだけ近づいた気がした。

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