第2話 笑えない奴ら

爆音、悲鳴、異能の衝突。

神影学園は、戦場になった。


俺は笑っていた。

痛みも、恐怖も、全部笑いに変えて。

それが俺の異能〈感情強化〉。

笑えば笑うほど、強くなる。

だから、笑う。無理してでも。

だって、苦しいと思ったら苦しくなりすぎるから。辛いと思ったら、辛いって気持ちが増幅するから。


「空木!後ろ!」


仲間の声。振り向く。

黒い霧の中から、異形の襲撃者が飛び出してくる。

人間の形をしてるけど、目がない。顔がない。

あるのは、異能の気配だけ。


「ほんっと、笑いたくて笑ってるわけじゃねーのによ……。厄介な異能を持ったモンだよ」


俺は拳を構える。赤い光が拳に集まり、感情が力になる。襲撃者の一撃を受け止めて、カウンターを叩き込む。


――ドンッ!


地面が割れ、襲撃者が吹き飛ぶ。でも、すぐに立ち上がる。無言で、感情もなく。


「こいつら……痛みを感じてねぇのか?」


そのときだった。一人の襲撃者が、俺に向かって言った。


「お前は、まだ笑えるんだな」


声は低く、冷たい。でも、どこか悲しげだった。俺は笑いながら答える。


「笑うしかねぇからな。笑ってなきゃ、壊れちまう。……お前には、これが笑ってるように見えんだな。俺はもう、心はズタボロだ」


「……俺たちは、もう壊れた」


その言葉に、俺の笑顔が揺らぐ。

何だ、この感覚。

こいつら、ただの敵じゃない。

何かを――失った者たちの、残骸みたいな。


「お前ら、何者だ?」


俺が問うと、襲撃者は一瞬だけ沈黙した。そして、ぽつりと呟いた。


「“黒の記録”を、探している」


その瞬間、教師たちが叫んだ。


「その言葉……まさか、“黒い英雄”の残党か!?」


ざわめきが広がる。

俺は知らない。

“黒い英雄”って誰だ?

“黒の記録”って何だ?


でも、襲撃者たちはそれ以上語らず、霧の中へと消えていった。

戦いは終わった。

でも、何も終わっていない。

むしろ、始まったばかりだ。

なぜ襲ってきたのか、これから襲ってくることがあるのかもわからない。


俺は空を見上げて、笑った。

妹の写真を胸ポケットにしまいながら。


この世界には、笑えない奴らがいる。

そして、俺も――その一人なのかもしれない。

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