第23話 伝説の祈祷師降臨

夜の長屋前。風神と雷神が太鼓を叩き、笛を吹き鳴らしながら祈祷の準備を始める。

風がざわめき、火が揺らめく中、二人は怪しい装束をまとい、顔に朱や黒の模様を描いている。


風神(大声で)「いざ参らん!霊障祓いの儀、始まるぞ!」


雷神「邪気よ、悪霊よ、我らの祈りにて消え失せよ!」


貴司(心の声)「おいおい、完全に舞台役者じゃねぇか。せめてもっと渋く決めろよ、演出過剰すぎだろ。」


風神、太鼓を叩きながら一気に熱が入りすぎてバチが折れる。


貴司「バチ、早々に折るなよ!何年モノの太鼓だと思ってんだ、もったいねぇ!」


雷神、笛を吹くも途中で空気が漏れて、変な音に。


貴司「それ、笛じゃなくて空気漏れじゃね?つか、呪文もなんか歌詞間違ってるぞ!」


風神「我が息吹よ、邪を焼き払え!」


雷神「雷光よ、悪を裂けぇーー!」


貴司「ちょっと待て、その『雷光』叫び方、完全にアニメの必殺技っぽいから!しかも長すぎ!」


博志(苦笑い)「いや、俺もそう思ってたわ…完全にエフェクト狙いだろこれ。」


風神、祈祷に集中しすぎて煙まみれになり、「むせる」リアル展開。


貴司「煙でむせてんじゃねぇよ!そんなんじゃ霊も逃げてくわ!」


雷神、太鼓を勢い余って自分の足を叩く。


貴司「自爆かよ!これもう祈祷じゃなくてコントだわ!」


風神「我らの力、見せてやる!」


雷神「天罰下れぇーー!」


貴司「いや、天罰がまず自分たちに下ってるっつーの!」


博志(苦笑)「これ、江戸のラスボス戦以上に混乱してるわ。」


風神が太鼓を叩き、祈祷のリズムを刻む。茂吉はじっと目を閉じ、心の中で祈っている。 


風神が真剣な表情で呪文を唱える。


風神「アララトゥシル・バザル……(←完全に謎の言葉)」


貴司「何語だよそれ!呪文じゃなくて暗号文か!意味教えろよ!」


雷神、棒を振り回しながら「悪霊よ散れ!」と叫ぶ。


貴司「お前の棒、ただの木の棒だろ!呪文も棒振りも全部即興の居合い抜きかよ!」


風神が突然踊り出す。


貴司「踊り出すな!これ霊祓いか盆踊り大会か区別つけろ!」


雷神、ふと気づいて煙草の火を消す。


貴司「煙草吸いながら祈祷してんじゃねえ!霊どころか自分が病気になるわ!」


博志「……こりゃ祭りの余興以上のカオスだわ。」


茂吉は真剣な表情で耳を傾け、祈祷の声に集中している。 


風神が一心不乱にお香を焚くが、煙が自分の目に入ってしまい涙目に。


貴司「おいおい、自分の涙で祈祷どころじゃないでしょ。むしろ笑いを取りにきてるのか?」


茂吉は静かにうなずき、祈祷の効果を信じている様子。


茂吉が真剣に言う。


茂吉「見ておれ、この祈祷が長屋の未来を変えるかもしれんのじゃよ。」


貴司「茂吉さん、それ信じるのは勝手ですけど、俺には完全にコントにしか見えないっす!」


祈祷が終わり、風神と雷神が息を切らして座る。


茂吉は感謝の意を込めて深く一礼し、町の平穏を願う。

 

こうして風の音とともに風神、雷神は去っていたった。


茂吉は、両手を腰に当てて、えらく満足げな顔をしていた。

「いやぁ……すごかったなぁ。風神様と雷神様が、わざわざ来てくださるとは……」 


「これで……悪霊は去った! もう、夜に怪しい声が聞こえることもなければ、影が揺れることもない!」

ざわざわと集まった人々の間に、安堵と歓声が広がる。

「さすが祈祷師さまだ!」「これで夜道も安心だ」

「ふぅー……よかった……」と子どもたちも笑顔になる。


──(貴司の心の声)

(いやいや、風神と雷神、あれ絶対素人のコスプレだろ)

(ていうか、呪文っぽいの、あれ中学生が考えたラップだぞ)

(“悪霊去れ”じゃなくて“飴くれされ”って聞こえたし)

(みんな真剣に聞いてるけど、これで平和になるとか……マジかよ)


茂吉はさらに腕を広げ、力強く締めくくる。

「さぁ! これからは安心して眠れる! 我らの長屋に、平和が戻ったのだ!」

「おぉーっ!」と拍手と歓声。


そのとき——茂吉の背後。

長屋の暗がりを、すうっと白い袖のようなものが横切った。

誰も気づかない。茂吉も、笑顔のまま。


「…さ、みんなで酒でも飲もうじゃねぇか!」


拍手と笑い声の中、暗がりはゆっくりと井戸の方へ消えていった。


──(貴司の心の声)

(あー……これは、平和っていう名の現実逃避ってやつだな)

(ま、いっか……俺は夜、耳栓して寝よ)


場が解散し、井戸端も静かになったころ。

貴司と博志は、長屋の外れの路地で肩を並べた。


貴司「なあ博志さん」

博志「ん?」

貴司「……あれ、見えましたよね?」

博志「あれって?」

貴司「いやいや、しらばっくれなくていいですって。茂吉さんの背後をスーッと……」

博志「ああ……まぁ、見えたな」


貴司「で、あれってつまり」

博志「うん」

貴司「なんも解決してないってことですよね」

博志「だな」


二人とも、妙に真顔で黙る。


貴司「ていうか……もし本物なら、俺たち今日、ガチでヤバい空間にいましたよね」

博志「ガチだな。あの風神雷神のやりとり、今思えば……」

貴司「いやいやいや、あれはギャグでしょ!」

博志「お前が勝手にギャグにしてただけだろ」

貴司「え、違うんですか!? だってあの雷神の語尾、明らかにフワフワしてましたよ! 『~なのじゃ』とか」

博志「江戸じゃ普通だ」

貴司「普通じゃないですって!」


二人の声が路地にこだまする。

背後で、また白い影がすっと横切ったことに、まだ気付いてはいなかった。

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