第22話 江戸の怪談

夕暮れの長屋の路地。子どもたちは井戸のそばで声を潜めている。


「なあなあ、見たんだぞ、河童の赤い目を!」

「ええー、本当かよ?河童なんているのか?」

「いたんだって、川のほうでチラッと見えたんだ!」


近くの縁側に座るおばあさんは、手を震わせながら話す。


「ろくろ首がこのあたりの夜に出るそうじゃ。首がぐるりと伸びて、あの火のような目が暗闇に光るんじゃよ」


酒を飲みながらうつむく老人が、低い声で言う。


「化け猫の目が、夜中にじっとこっちを見ていた……あれは縁起が悪い」


町娘たちは屋台の片づけをしながら、噂話に花を咲かせる。


「聞いた?あそこの辻で髪の長い幽霊を見たんですって」

「そんなの怖すぎるわよ、気をつけなきゃ」


浪人の男は、片手に杖を持ちつつ冷静に話す。


「噂話に惑わされるな。江戸の闇は深い。だが、怪異の話は人の心を映す鏡とも言える」


夕闇が迫る長屋の広場に、町の人々がざわめきながら集まっていた。今日の噂があまりにも多く、長屋の誰もが不安な表情を隠せない。


茂吉が太く低い声で口火を切る。

「おい、みんな。ここ最近の怪談の話、知っとるな? 河童やろくろ首、狐の化け物……こんな話がまことしやかに町を駆け巡っておる。」


清次は腕を組み、険しい顔で応じる。

「わしもよ、夜な夜な家の周りから物音がして気味が悪い。だが、怖がってばかりおれん。情報を共有して、みんなで対策を考えるしかねえんだ。」


町娘のお紺が腕を組み、はっきりした口調で言う。

「化け物なんてただの噂話だ。うちらはちゃんと現実を見て動かねえと。ばか騒ぎして、ただ恐怖に怯えても仕方ねえだろ?」


おばあさんが細い声で口を開く。

「わしら年寄りは、昔からこういう噂は大事にしてきたんじゃ。怪異は災いの前触れとも言う。用心するのに越したことはないんじゃよ。」


長屋の広場に雷五郎がどっしりと足を踏み鳴らし、声を張り上げる。


「おいおい、ここんとこよォ、わしも夜中に寝れんでな。怪しげな気配に背筋が凍る思いじゃ。あの怪奇話は嘘じゃねぇぞ、昔の相撲仲間も変なもん見たっちゅう話をしておった。」


浮世絵師の竹村は筆を動かす仕草をしながら、

「ほほう、そりゃ絵のネタにぴったりじゃ。妖怪の姿を描いてみてはどうじゃ?」と興味津々だ。


河田先生は静かに頷き、

「怪異と申しても、病や精神の異変が原因のこともあろう。医者としては冷静に見極めねばならぬが…長屋の皆の健康には気を配らねばならん。」と慎重に話す。


貴司は腕を組みながら、

「いやあ、科学的に考えたらそんなの絶対にないっすよ。妖怪とか幽霊とか、証拠がないっすから。ただの迷信じゃないですかね?」と疑問を投げかける。


博志は心の中でヒヤリとしながらも、

「……(おいおい、貴司、ここは空気読めよ……俺も内心ビビってるんだよ)」と思いながらも、貴司の背中をそっと叩いてなだめる。


茂吉が声を張り上げ、

「皆の衆、科学だのなんだのは置いとけ。今は一つ、長屋の仲間を守るために力を合わせるんじゃ!」と場をまとめた。


茂吉:「このままじゃ町の連中も夜もろくに眠れん。ここは祈祷師の風神、雷神に来てもらわんと始まらんわい。」


清次:「祈祷師……? そんな怪しげな奴らが本当に効果あるんか?」


茂吉:「怪しげじゃが、あいつらは江戸でも知られた御祈祷の達人じゃ。お前らも、一度その目で確かめるがよい。」


貴司「祈祷師?そんなの科学的に証明されてないし、意味ないっすよ。データもないし、プラシーボ効果っすね。」


(場の空気が一瞬凍る)


清次「……え?科学的?何のことじゃ?」


お紺「……それ、なんじゃ?」


河田先生「はて、科学的という言葉、わしには難しいのう。」


茂吉「……おいおい、そんな横文字並べられてもわからねえよ。」


貴司(焦りつつ)「えっと、つまり、こう…エビデンスがあって…」


町娘「エビデンス?それ食べ物の名前かい?」


子どもたち「?」(みんな首をかしげる)


貴司「いやいや違いますよ!科学的根拠っていうのはですね……」


(誰もついてこれず、ますます場がしらける)


博志(苦笑いしながら)「貴司、オレら江戸に馴染むにはもう少し簡単な言葉で話せよ……」


貴司「つまりですね、怪談とか祈祷ってのは、再現性も検証もされてないから、科学的にはありえないって話なんスよ。例えば、この江戸時代で幽霊がいるって言うんなら、まず証拠写真とかデータ集めて…」


おばあさん「あんた、証拠写真って何だい?そんなもん、この江戸じゃ見たことも聞いたこともねえよ。」


浪人「それがしも証拠写真?江戸の地にそんなものは無用じゃ。」


貴司「いやいや、スマホとかカメラでバシャバシャ撮るんすよ。光とか電磁波とかを解析して、ほら!」


子どもたち「……?」


お紺「あんたは何を言うておるんだ?」


雷五郎「わしゃ知らん言葉ばかりじゃ。なんのことやら、わしの力技のほうがよっぽどわかりやすいわい。」


河田先生(苦笑い)「科学、科学と申されるが、それがどう生きる力となるやもしれぬ。」


茂吉(腕組みしながら)「まあ、ワケわからん話だが…祈祷師の腕一本見てみっか。悪い奴ら蹴散らしてくれりゃそれでいい。」


貴司(あせりながら)「いや、でも本当にこう…検証できないものは信じちゃダメっすよ。」


博志(小声で)「貴司、オレらここで浮いちまうから、もうちょい噛み砕けよな……」


貴司「……はいっす。」


町娘(微笑みながら)「まあまあ、怖いこともあれば、面白いこともある。それがこの江戸の暮らしよ。」


こうして明日風神、雷神という祈祷師を呼ぶことになり、その日の会議は終わりを告げたのであった。

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