第19話 江戸の祭りと人の心

祭りの喧騒の中、提灯の柔らかな明かりが色とりどりに揺れている。屋台からは団子や焼き鳥の香ばしい匂いが漂い、子どもたちの歓声があちこちで飛び交っていた。


祭りの喧騒の中、お紺さんは町娘仲間と肩を並べて歩いている。彼女たちの笑い声が露店のざわめきに混ざり、祭りの熱気をさらに盛り上げていた。


「お紺、あの屋台のだんご、美味そうじゃねえか!」と一人が声を上げると、


「そうだな、あとで皆で寄って行こうぜ!」とお紺さんが笑いながら答えた。


お紺は子どもたちに向かって「おい、こぼすんじゃねえぞ。ここの祭り、来年もまた楽しまなきゃな!」と声をかけ、町娘たちもそれに続いて笑顔を返す。


その様子を博志は少し離れたところから見つめ、町の人々の強い絆と温かさを感じていた。


「お紺さん、お疲れ様です!」と声をかけると、お紺さんは振り返り、にこりと笑い話してくれた。


「祭りってのはな、ただの遊びじゃねぇんだ。あたしたち長屋の者が、こうして一緒に汗かいて、笑いあうことで、どんな苦労も乗り越えられるって証なんだよ。」


博志「へぇ、そりゃ面白え考えだな。なんだか、この町が家族みてえに見えてきやす。」


貴司「あー……お祭りの華やかさの裏に、そんな深い意味があったんすね。」


お紺「あの清次だってな、長屋の一員さ。みんな許してやらなきゃ、町は沈んじまう。おら、そこんとこは皆んな分かってるんだ。」


彼女の言葉に、祭りの喧騒の中でも静かな説得力が宿る。


江戸の祭りの夜、賑わう通りの一角で、突然、声が大きく響き渡った。


「てめえ、なんで俺の弟分に手ぇ出しやがったんだ!」

ごつい体格の男が怒鳴りつける。彼の身長はゆうに六尺はあり、肩幅も広く、かつては江戸で名を馳せた相撲取り、元「雷電」こと雷五郎だ。

博志はその男の迫力に思わずたじろぐ。

「こ、こりゃでけえ……俺でもあんな体は見たことねぇぞ……」


怒鳴り合いは次第にエスカレートし、相手の男も負けじと大声で応酬する。

「おいおい、こんな祭りの夜に喧嘩なんざ、勘弁してくれよ!」と貴司が震える声で言うも、全然届かない。


そこへ茂吉が悠然と割って入った。

「おいおい雷五郎、祭りの夜にゃ喧嘩なんざ無用だべ。お前もわかってるだろ?」と低い声で厳しく言い放つ。


雷五郎は一瞬睨み返すが、その視線に圧倒されて一歩後ずさる。

「茂吉……おめぇには頭が上がらねぇや」


茂吉はゆっくりと両手を広げ、威圧するように言う。

「この長屋の祭り、皆で楽しむもんだ。喧嘩でぶち壊す奴は、ここにゃいらねぇ」


男も恐れをなし、拳を下ろす。

「そうだよな……悪かったぜ」


茂吉がさらに続けた。

「お前ら、よく聞け。祭りは、日々の辛さを忘れるためのもんだ。お前らが揉めてどうすんだ? わかってんのか?」


二人の男は顔を見合わせ、重い空気が徐々に和らいでいった。


博志はホッと息を吐き、貴司も小さく「やべぇ、助かった……」と漏らした。


茂吉は二人に向かい、軽く頭を振りながら言う。

「さあ、祭りを楽しむんだ。これ以上の騒ぎは勘弁してくれよ」


その言葉に周囲の人々も徐々に笑顔を取り戻し、祭りの熱気が戻り始めた。


夕闇がゆるやかに町を包み込む頃、祭りの熱気はさらに高まっていた。

博志は肩の力を抜きながら、祭りのざわめきと人々の笑い声に耳を傾ける。


「こんなに騒がしいのは久しぶりだな……」

そう呟きながら、彼は屋台の明かりに照らされた色とりどりの提灯を見上げる。


貴司は隣で、「いやー、俺っち江戸の祭り、マジで異世界すぎっすわ。しかもこうやって人がみんな一つになってるの、ゲームの仲間感あるっすね」と嬉しそうに言った。


そこへ、お紺が笑いながら声をかける。

「祭りはな、人と人のつながりを確かめ合う場でもあるんだよ。火が灯るこの夜、みんなの心も温かくなるからね」


河田先生も穏やかな顔で加わる。

「町の者たちも、この日ばかりは困難を忘れて笑い合う。医者としても、こういう日が町の健康を支えると信じているよ」


博志はそんな言葉を胸に刻みつつ、ふと目をやると、あの騒動の主・雷五郎が遠巻きに祭りを眺めている。

その表情はどこか寂しげで、彼もまたこの町の一員なのだと気づかされる。


「祭りは終わるけど、俺たちの戦いはまだ続くんだろうな……」

博志はそう呟き、祭りの灯りの中で次なる決意を固めるのだった。


祭りの喧騒が遠ざかり、夜の長屋に静けさが戻った。

俺は五右衛門風呂のふたをゆっくり開ける。湯気が立ち上り、薪がはぜる音がぽつぽつと聞こえる。


「貴司、おい、今度はおめぇが入れよ。今日はお前の番だ。」


五右衛門風呂の縁に腰掛けた俺は、薪に息を吹きかけながら火を煽った。

「よし、貴司。おめぇのためにちょっと熱くしてやるからな。」


貴司は浴槽に浸かりながら、まだちょっと緊張した表情だ。


「いや、博志さん、熱すぎるのは勘弁してくださいよ。俺、火傷しそうっす……」


俺はフーフーと薪に息を吹きかけ、炎が勢いよく燃え上がる。

「ほら、これで温まらねぇと、江戸の冬は乗り切れねぇんだよ。」


貴司は思わず浴槽の中で体を震わせた。

「あっ、あっちぃっす!先輩、マジで熱いっすって!火炎魔法みたいっすよ!」


俺はニヤリと笑い、言った。

「現代のゲームなら回復アイテムだな。残念ながら、こっちじゃ使えねぇけどよ。」


貴司は慌てて浴槽から飛び出そうとしたが、結局もう一度湯に浸かりなおした。

「ううっ、でもこれが本当のサバイバルってやつなんすね……」


俺は心の中で苦笑しながら、貴司の初々しいリアクションを眺めていた。

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