第2話 同期に初めまして

「いや〜お見苦しいところを見せちゃいましたね」


「別に気にしてないよ」


 フロキャス新人vtuber恒例の合宿。


 いくつもの神回が生まれた聖地に興奮し、さっきまでの私は私ではなく、ただの日向桜子というガワを被ったオタク君だった。


 テーブルを挟んで向かいの席で微笑むこの人は白鷺葵しらさぎあおいさん。

 vtuber「海月葵」の中の人で、私のただ一人の同期だ。


「配信にも声乗っちゃいましたし、本当に申し訳ないです」


「真面目だね。気にしていないと言っているのに」


「白鷺さん……」


「おっとストップ」


「ふぇ?」


 白鷺さんは私に手のひらを向けて静止させた。


「とある情報筋から、君は嘘をつくのが苦手だと聞いている。私を本名で呼ぶのはリスクが高いから、普段から葵と呼んでほしいな」


「それは願ったり叶ったりですがっ! お願いしますっ!」


「うん。私も君のことは桜子と呼ぼう。同期の中を深めるのも、この合宿の意義だからね」


「はいもう喜んで!」


 やべー、葵さん顔が強すぎて危険だ。何をお願いされても「はい喜んで」と答えてしまう気がする。ギリギリダンスやでこんなん。


 ちなみに私はオタクな訳だけど、当然同期である海月葵の配信もチェックしている。


 チャンネル登録者14万人。主な配信時間は22:00〜05:00。

 ゲーム実況や先輩とのゲームコラボを主戦場とする生粋のゲーマーさんだ。


「そ、そういえば葵さんのマイクラ実況観ましたよ! 知識量はもちろん建築センスも光ってましたね!」


「すごいな、私の配信を見てくれていたの?」


「も、もちろん! 同期ですから!」


「それはバツが悪いな。私は君の配信を見たことがないんだ。ごめんね」


 しまった、打ち解けるつもりが逆に気を使わせてしまった!


「いえいえそんな! 葵さんが昼夜逆転していることも知っていますから。お昼から夕方にかけての配信が多い私とは生活リズムが違いますもんね!」


「そうだね。でも今度アーカイブを覗かせてもらうよ。それと……私のことを『葵さん』だなんて堅苦しく呼ばなくていいよ。葵と呼び捨てにしてくれ」


 えっー! マジ!?

 呼び捨てか……なんか気恥ずかしさと緊張が混ざって変な感じ。でも葵さ……葵本人の要望だし……。


「わ、分かったよ葵」


「うん。それがいい」


 葵は満足げに頷くと、ふわぁぁと小さくて可愛いあくびをした。


「あ、お昼の12時……」


「うん。いつもなら寝ている時間だから……ごめん、先に部屋に行って寝させてもらうね」


「は、はい! 何時に起きる予定かだけ教えてもらってもいいですか?」


「えっ? たぶん20時には起きると思うけど」


「わかりました! 任せてください!」


「任せる……? よく分からないけど、任せたよ桜子。おやすみ〜」


「おやすみなさーい」


 眠気に脳を支配されたように、葵はふにゃふにゃの赤ちゃんみたいな顔をして二階の寝室へと吸い込まれていった。


「……よしっ! やるぞ!!」


 と同時に私は意気込む。カバンからエプロンを取り出し、自分の腰に巻いた。


「これより作戦を開始する! 作戦名は『葵の胃袋を掴んで喜んでもらおう大作戦』だ!」


 合宿舎にはキッチンが用意されている。


 ただvtuberのほとんどは家事能力が低く、コンビニ飯やウーバーに頼りきりの人が多い。


 実際この合宿舎の山を少し下ったところにコンビニがあり、食事には困ることはないだろう。


 でも私は……この合宿で葵と仲良くなりたい!


 あわよくば先輩たちみたいに「てぇてぇ」関係になりてぇ!


 だから自分にできることを遂行する。


 私は胃袋から、葵を籠絡するんだ!



◆告知◆

ハーレム系百合スローライフも書いております。

こちらも併せてぜひご一読くださいませ!


【元聖女が魔族の少女を拾って楽園を作る話】

https://kakuyomu.jp/works/822139840504483400

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