新人vtuberですが同期がメロすぎて困ってます
三色ライト
第1話 新人vtuber:日向桜子
大手vtuber事務所【
チャンネル登録者200万人を超えるライバーも所属する、日本を代表するvtuber事務所だ。
そして私、ただの【Flora Cast】オタクだった
先月フロキャスから、vtuberデビューを果たしたのである!
◆
「ここがあの……」
「弊社の新人育成プロジェクト。その合宿舎です」
私のマネージャーさんに案内され、やって来たのは事務所が所有する木造のお家だった。
新築のようとまでは言わないけど、綺麗な外観だった。マネージャーさん曰く築7年でハウスキーパーさんが週に1回掃除に来るらしい。
外には花壇があり、季節の花々が可愛く咲いていた。さすが花をモチーフにしたライバーが所属する事務所なだけはある。
「桜子さん、今日から1ヶ月の合宿、頑張ってくださいね!」
「は、はい……」
私を車から降ろし、そのままマネージャーさんは走り去ってしまった。だんだん薄くなっていく車の後ろ姿が何だか寂しくって心細い。
「いやいや、やるぞ! やったるぞ! 憧れの先輩方だってみんな合宿してたし、神回も挙げきれないほどに生まれてた!」
意を決して木造りの合宿舎に入った。1階にはキッチンもリビングがあり、どちらも精緻な掃除が行き届いていた。さすが大手事務所だ。
また廊下を挟んでリビングの向かいには約10畳の部屋があり、デスクと椅子に何台ものパソコンとモニターが配置されていた。確認するまでもなく、配信室だ。
「ここが数多の神回を生み出した聖地……!」
私のオタク心にボッと火が灯った気がした。
フロキャスではデビューした新人を1ヶ月間合宿させる恒例行事がある。そこで同期との絆を深めたり、急に襲来する先輩とゲリラコラボ配信をしたりと、トークデッキと対応力が磨かれるわけだ。
私の好きな先輩vtuberもみんなここを経験している。そんな聖地と呼べる配信室に、私は我慢できず……
「みんなヤッホー! 春夏秋冬いつでも満開桜! あなたの日向に桜あり。日向桜子でーす」
勝手に配信を始めてしまった。
まぁ……いいよね? 合宿のいつから配信しろとか指定ないし。合宿中一度も配信しないで逆にバズったやべー先輩vtuberもいたし。
自分を肯定する材料を見つけまくって、私はもう一度カメラに向かって微笑んだ。
すると画面に映る桜色の少女が呼応するように笑顔になった。
そう、この子こそ私の分身。インターネットの世界での私なのだ。
桜色の髪には編み込みが入り、ミディアムの長さで整えられている。ヘアピンは緑色、髪は桜色だから桜の妖精みたいな少女だ。
胸は無いけど、まぁ私もないから仕方ない。過度に盛るとキャラクター維持が大変だとマネージャーさんに言われ、デザインの段階で泣く泣く巨乳の夢を捨てた。
ちなみにvtuberとしての名前は日向桜子だけど、実は本名も日向桜子だ。
本名でデビューすると言われた時は大反対したけど、「絶対に本名をポロッと言わない自信がありますか?」と聞かれ、「確かに」とぐうの音も出なかった。
「みんな桜の花ありがとう〜。桜色のコメント好きなんだよね〜」
コメント欄はすでに桜の絵文字で埋め尽くされ、真っピンクだった。初見さんは驚いているだろうけど、私みたいなバズっても無い新人を見に来る人はみんなすでにvtuberのファンだ。すぐ慣れる。
「さーて私は今どこにいるでしょう? クイズですクイズ」
『わかるか!』
『外配信してるの? 身バレ大丈夫?』
『こちら後方腕組みフロキャスオタク。新規の動揺ににっこり』
コメントがいい感じに盛り上がってきた。
「まぁフロキャス古参なら分かるよね〜。そう、デビューして1ヶ月が経ったので、合宿に来てます!」
『キター!』
『今年のゲスト楽しみ!』
『桜子コミュ力なさそう』
「おい誰だ今暴言言ったやつw 桜の木の下に埋めるぞw」
リスナーとプロレス。vtuberの醍醐味だよね〜。
『合宿ってことは葵ちゃんと一緒か』
コメントでハッとした。
そう、この合宿はデビューして1ヶ月経った新人が、
"同期と絆を深める"ためのものだ。
私にも1人、同期がいる。名を
これまでは生活リズムが違うとかですれ違いばっかりだった。つまりリアルで会うのは今日が初めて。
「そうなの〜、葵ちゃんと一緒だから超楽しみ」
『てぇてぇを察知しました』
『壁になります』
『床で踏まれたい』
「おいコラ、百合カプ厨は自我出すな〜」
楽しみだけど、不安でもある。
配信での葵はクールで冷静で清楚なキャラだ。中の人が実は腹黒とかだったら凹む自信がある。
『なんか物音しない?』
「ウソ、なんだろ?」
ヘッドホンのせいで周囲の音が聞こえない。だから視聴者の方が生活音に気がつくのはよくあることだった。
ヘッドホンを取ろうとした、その瞬間。
「ここが配信部屋か」
「ゔぇ!?」
「あっ」
配信室のドアが開かれ、廊下から深い青と漆黒が混ざった深海のような女性が入ってきた。
すらっと伸びた足に、スレンダーな体。でも出てるところは出てて、羨望すら覚えた。
きっとこの人が葵だ。そう思った私と裏腹に、私の中のオタクが勝手に叫んだ。
「うわっ! ド級の美人ッッッ!」
大切な大切な同期との
⬛︎あとがき◼️
♡やブックマーク、オススメレビュー☆☆☆ありがとうございます!
執筆の励みになります! 大感謝です!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます