第4話
コウちゃんが海外で新しい生活を始めて数ヶ月。
毎日が刺激的で、授業や友人との交流に夢中になっていた。
しかし、時差や忙しさで連絡は次第に減り、彼の時間はどんどん変わっていった。
一方、日本の狭いアパートでミナミは疲れた顔で電話を握りしめていた。
仕事と子育てで休む暇もなく、リクの世話に追われていた。
「ねえ、最近あんまり話せてないよね…」
ミナミの声はどこか寂しげだった。
コウちゃんはスマホの画面を見つめて答えた。
「ごめん、忙しくて。でも、新しいことがいっぱいで楽しいんだ」
その言葉に、ミナミの胸は締めつけられた。
「楽しい」って、あの頃の二人とは違う世界の話だった。
次第にすれ違う心と生活リズム。
連絡が減り、会う約束も途切れていった。
「このままじゃ、うまくいかない」
ミナミは苦しい決断を胸に秘めた。
愛していたからこそ、もう無理だと感じてしまった。
コウちゃんもまた、遠く離れた異国で孤独を噛みしめていた。
すれ違う時間は、二人の距離を広げていった。
そして、静かに、別れの扉を開けることになったのだった。
海外の静かな部屋で、コウちゃんは箱を開けて丁寧にサッカーボールを包んだ。
新品のスパイクや、憧れのJリーガーのサインも一緒に詰めた。
「リクが喜んでくれたらいいな」
郵便局のカウンターで荷物を差し出しながら、少し照れくさそうに笑った。
直接会えなくても、少しでもリクの力になりたい。
数週間後、リクは学校の友達に見せびらかしながら新しいスパイクを履いた。
ボールを蹴るたびに、遠くのコウちゃんを思い浮かべた。
「コウちゃん、ありがとう!」
リクの声は風に乗って、きっとコウちゃんのもとへ届いている。
離れていても、ふたりの絆はこうして確かに繋がっていた。
国際電話の向こう、ミナミの声は思ったよりも冷静だった。
「ねえ、コウちゃん。留学して…何をしたいの?」
ただの質問のようでいて、それはまるで、“私たちはどうなるの?”という問いかけのように聞こえた。
コウちゃんはすぐに答えられなかった。
たしかに、夢はあった。
けど、それが“誰かを待たせてまで叶える価値のあるもの”か、正直わからなかった。
「……わからない。でも、自分を変えたくて」
言いかけた言葉は途中で飲み込まれた。
ミナミの呼吸がふっと静かになる。
「そっか。じゃあ、私も、リクのために前に進むね」
静かな声だった。
泣いても怒ってもいなかった。
だけどその言葉は、突き放すように胸を締めつけた。
それが、別れの合図だった。
その夜、コウちゃんは一人で空を見上げた。
南半球の星空は綺麗で、やけに遠かった。
まるで、もう届かない誰かの心のように。
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