第6話
戻って来た彼は大きなスポーツバックを肩にかけ、脇には猫用トイレを抱えていた。
カバンがあるなら最初からそれに入れて来たら良かったのに。
「クロはどうしてますか?」
「ソファの上で寝てるから安心して」
「良かった」
今度は笑みを浮かべて、そこに立ったままでいる。
一度想像してしまったせいか、今度は「マテ」をしてるワンコに見えてしまう。
「立ってないで、どうぞ?」
「でも、こんな状態で中に入ったら、水無月さんに迷惑をかけることになります」
「玄関からお風呂場までの床はタイルだし、濡れても拭けば綺麗になるんだから気にしなくてもいいよ」
玄関からお風呂場までの導線は、ゴシゴシ擦って洗えるようなタイルになっている。もしかしたら、お散歩中に泥だらけになってしまったワンコをお風呂場に直行させても、後でお掃除が楽になるためのものかもしれない。
部屋のフローリング材は犬が滑らない材質のものが使われているし、このマンションは、至る所にそういった配慮がなされている。
というよりも、ペットと暮らすことが前提の造りになっている。
「ありがとうございます……」
「まだ何かある?」
「親しくもない男にお風呂を貸すの嫌じゃないですか?」
それは……考えてなかった。
でも今更「NO」とも言い難いし、クロが心配。
「気にしないで」
「クロを連れて来ていただいてもいいですか?」
「わかった。ちょっと待ってて」
疲れきっているのか、ピクリとも動かずソファで眠っているクロを起こすのは忍びなかったけれど、「ごめんね」と声をかけてから抱き上げた。
さっきタオルで拭いたけれど、抱き上げるとクロはまだしっとりとした感触があり、毛は完全には乾いていなかった。
「クロ、飼い主さんだよ」
抱き抱えたクロを長谷くんの広げた手に託すと、長谷くんは、ふにゃっと顔を緩め、愛おしそうにクロの顔へ頬ずりをした。
その様子を見て、さっきはクロを私が抱いていたから、触るのを遠慮していたのだとわかった。
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