第7話

「ありがとうございました」



お風呂から出た長谷くんは、Tシャツにスウェットという出立で、モシャッとしていた髪の毛は上にあげておでこを全開にしていた。

胸にはしっかりとタオルで包んだクロを抱いている。


メガネをしていないから、顔の造りがはっきりとわかる。

さっきはヲタクの典型みたいに思ったけど、一重のせいか切れ長の目元はキリッとしていて、鼻筋も通っている。

でも、イケメンというわけではない。


そのいたって普通の男は、床に座って黒猫をタオルドライし始めた。

腕には、出来たばかりの無数の引っ掻き傷がある。



「クロはお水が嫌いって言ってたのに洗って大丈夫だったの?」


「本当は嫌がるから避けたかったんですけど、かけられたのが貯水池の水だったから、洗わないわけにはいかなくて」



それって、あなたもそんな状態だったってことだよね?

それなのに、猫のことばかり心配していたの?



床に座っている長谷くんの正面に私もしゃがんだ。



「ドライヤー使う?」


「いえ。ドライヤーは怖がるので」



今のは長谷くんに言ったんだけどな。



「ねぇ、長谷くんって、学生?」



わたしの質問に不思議そうな顔をされた。



「そんなに若く見えますか?」


「違うの?」


「28なんですが……」


「ごめんなさい。自分より年下だと思って会話してました。同じ年なんですね」



もっと若いと思ってたら、同じ年だった!

童顔? とても28には見えない。



「明日もお仕事ですよね?」


「敬語はなしでお願いします。僕は……融通のきくアルバイトの身なので心配はご無用です」



私には「敬語はなしで」と言いながら、自分は敬語を使っている。

「しばらく私の家にいる?」は、クロに向けた言葉であって、その誤解をどうやって解いたらいいのか……

かと言って、すっかり夜中になってしまった今、追い出すのも気が引ける。



お風呂に入ったクロは、きれいな黒い毛がふかふかになっていて、長谷くんに抱かれた状態で眠っていた。

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