第32話 混沌を求めてー鎌田大地とプレミアリーグの潮流
また1人日本代表選手に覚醒者が現れた。
PLクリスタル・パレスFC対リヴァプールFC戦は、後半アディショナルタイムに劇的な決勝点を挙げたパレスが2−1で勝利した。
鎌田大地は先発出場し終了間際までプレーした。
随所にらしさを発揮していた。得点には繋がらなかったプレーだが、後半に見せたアウトにかけた浮き球スルーパスは実に美しかった。
セットプレーのキッカーを任されているだけではなく、選手間のやり取りなどからもチーム内で信頼されていることが良く分かった。
それよりも凄かったのは、パレスのダイレクトプレーに完全に適応していたことだ。
身体能力に恵まれてるとは言えない鎌田大地が、強い強度で積極的に競り合いを行っていた。
ルーズボールへの寄せやカバーリングなども適切で、チームの一員として高く機能していた。
昨シーズン優勝チームであるリヴァプール相手にこのプレーが出来れば、どのチーム相手にだって充分なプレーが出来る。
これで鎌田大地は、身体能力を理由にメンバーを外される理由が無くなった。
今の監督・コーチ世代に屈強と言われてた元日本代表のDF達でも出来なかったプレーが、鎌田大地には出来ている。
「自分達のサッカーが出来なかったから」という言い訳を今の鎌田大地は必要としていない。
現在の日本代表の選手達の進化が、目に見える形で表れた一例だろう。
ところでこの試合の決勝点は、ロングスローからだった。
プレミアリーグ全体でもロングスローは増えているし、ダイレクトプレーをするチームも多くなってきている。
ダイレクトプレーにはスペースがある内に攻めるとか選手個人の力を活かすとかの理由がある。
それに加えてもう一つ、混沌とした状況を創り出すという狙いがある。
選手が重なり合う密集では繊細な技術や高いキック精度もあまり役に立たず、選手の実力差が表れ難いためだ。
なんなら密集地では、足元の技術より相手を抑えつける腕力で勝負が決まることさえある。
この状況は選手の質で負けているチームにとっては望むべきものなので、当然中位・下位チームが行うことになる。
そして偶にアップセットが生まれる。
プレミアの今シーズンは下位チームが得点出来るなら上位チームも得点出来るだろうということで、
トップチームもダイレクトプレーを一部導入しだした。
リヴァプールのロングボールは前からだが、マンチェスター・シティやアーセナルもロングボールが増えだした。
シティがGKにジャンルイジ・ドンナルンマを迎えたのはこの一環で、今までより得失点に直接関わる部分を重視しているからだ。
アーセナルの場合はダイレクトプレーに向いているヴィクトル・ギェケレシュとエベレチ・エゼをチームに迎えたことが大きい。
ロングスローは、計算の結果だと思う。相手ゴール近くで普通にスローインをしてチャンスを創り出せる割合と、いきなり相手ゴール前にボールを放り込む効率の良さを比べたのだと思う。
そしてそこで戦える選手がいるのだから。
アーセナルのロングスローを批判している人もいるが、アーセナルにとっては混沌とした状況を創り出せるだけで充分なのだろう。
マンチェスター・ユナイテッドからイタリアへ渡ったスコット・マクトミネイとラスムス・ホイルンドも、ダイレクト志向の強いSSCナポリ監督アントニオ・コンテの戦術の恩恵を受けている。
マクトミネイは得点力が開花し昨シーズンのMVPをしたし、ホイルンドも早いタイミングでパスが出てくるのでプレーしやすそうだ。
きっとこれは2人ともに緻密な戦術をするよりも、ダイレクトプレーの方が向いているためだ。
そういう選手はとても多い。ユナイテッドに話を戻しても、ベンヤミン・シェシュコの初得点は混戦からだった。
選手自身がきれいな崩しや連携が得意だと思っていても、実際は混戦から生まれるゴールは数多い。
攻撃の選手特にFWは、自分では気づかなくても実は混沌とした状況を待ち望んでいるものだ。
そして結構な数のサッカーファンも、気づいてはいないが単純で分かりやすいダイレクトプレーの方が好きなはずだ。
なんせ頭使わなくても楽しめるから。
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