第31話 幸せになるために

 ELレアル・ベティス対ノッティンガム・フォレストが行なわれ、2−2の引き分けと相成った。話題となったのは、2点。



 フォレストのボール保持率が63.6%と高い数値を記録した事。

 これは前監督ヌーノ・エスピリト・サントの時のスタイルとは真逆で、早くもアンジェ・ポステコグルー監督の色が出ている事を証明する数値だ。

 それは1点目の崩しなどプレーにも表れていたそうで、チーム全体のプレーをポステコグルーも喜んでいた。


 このポステコグルーのチームに戦術を浸透させる力、チームを自分の色に染め上げる力は本当に凄いものだ。

 チームが思うように動かずにストレスを溜める監督も多いが、ポステコグルーは直ぐにチームを”アンジェ色“にしてしまう。


 勝敗や最終的な結果は当然別の話となるが、もう暫くはアンジェボールと呼ばれるアタッキング・フットボールを楽しむことが出来そうだ。



 ベティスの2点目・同点弾となるゴールを決めたのが、デッドラインデーに待望の再移籍を果たした

アントニーだ。

 マンチェスター・ユナイテッドで受けた冷遇からの華々しいカムバックとなった。


 ベティスは選手に優しいクラブだ。そのせいかは分からないが、かつてビッグクラブにいた有名選手も在籍している。

 元レアル・マドリードのMFイスコや元アーセナルでベンゲル政権末期の右SBエクトル・ベジェリン。

そしてユナイテッドからアントニーが加わった。


 ベティスはスペイン・アンダルシア州セヴィージャにあるクラブ。

 同地にはセヴィージャFCもあって、こちらの方が格上だ。なんせディエゴ・マラドーナが在籍したいた事もある。

 一方ベティスは、どちらかと言えば社会的弱者に応援されるアットホームな小クラブだ。

 このクラブが他のクラブと一線を画しているのは、ファンの性質だ。

 クラブを勝ったら喜び負けたら怒るといったストレスや欲求不満の捌け口としてではなく、苦楽を共にする同志・仲間として捉えている。

 ファンの合言葉は“ビバ・ベティス、たとえ敗れようとも”だ。たとえ敗戦後でもチームを讃える。


 ユナイテッドで苦しんでいる姿をさんざん見せられてきたので、アントニーには幸せになって欲しいとつい思ってしまう。


 ユナイテッドでの苦労はアントニーだけのせいではなく、ピッチ上でのサポート不足のせいもある。


 アントニーへの批判は、ゴールとアシストのポイントとクロスボールの少なさだった。

 しかし逆足WGのクロスボール数は少ないのが普通だ。パスを繋ぐサッカーをしていたので、早いタイミングのクロスボールも難しかったはずだ。


 アントニーにとっての問題は、アヤックス・アムステルダム在籍時にいた現アーセナルのユリエン・ティンバーの様なワイドに開いてサポートしてくれる選手がいなかったことだ。

 何故ならアントニーが本当に得意なエリアはタッチライン際ではなく、右ハーフスペースとボックス右側だからだ。

 そこでの連携やシュートが本来の持ち味で、それが出来なかったのことが問題だった。

 

 日本代表で例えるなら、堂安律をタッチライン際に置いてゴールやアシストが少ないと文句を言うよりなものだ。

 もっとわかりやすくすると、本田圭佑をタッチライン際に置いたら、何が出来る?ということだ。


 こういうサポートをしなかったのがユナイテッドであり前監督のエリック・テン・ハフだった。

 なのでユナイテッドでの結果は、単純にアントニーの力不足だけとは言えないと思う。


 幸いベティスにはベジェリンがいてアントニーの右側を走り込んでくれるし、監督は名将マヌエル・ペジェグリーニだ。

 アントニーは今気持ち良さそうにプレーしているので、見ているのが楽しい。


 今アントニーは「自分は悟りを開いた」と言っている。まぁそうなんだろう、お幸せに。

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