第21話 ▶ かばう

 欧州各地でW杯予選が行われた時の話。



 懐かしい人がいて、ロベルト・プロシネツキはモンテネグロ代表監督をしていた。だいぶ太ってた。



 ノルウェー代表は対モルドバ代表戦にて、夢のハイスコア11−1を記録した。

 アーリング・ハーランドはなんと5得点!司令塔マルティン・ウーデゴールとの連携は、ホント素晴らしかった。


 ウーデゴールがドリブルの進路を変えることでハートランドに走る抜けるコースを示したり、ハートランドが予備動作でスルーパスを呼び込んだりと、信頼し合っていることが良くわかる。


 ウーデゴールの司令塔ぶりはもちろん見事なのだが、やはりハートランドのゴール前でのポジショニング・前動作が際立っていた。的確で効率的な、ゴールが決まりやすい動きを試合終了まで継続していた。

 勝ちやすい勝負をするのが重要で、得点を量産する秘訣とも言える。キリアン・ムバッペやクリスチアーノ・ロナウドもそういった選手だ。

 


 興味深いかったのは北欧勢と東欧勢で、良くも悪くも昔ながらのサッカーをしていた。

 

 民族的・国民的な身体的特徴もあるのだろうが、大型CFが多かった。しかも2トップに並べて。

 ハーランドやヴィクトル・ギェケレシュやベンヤミン・シェシュコなど最近話題のCFに北欧・東欧出身の選手が多いのも理解出来るようなサッカーだった。

 ハイクロスの多用も脅威だが、スペースで合わせるアーリークロスが凄まじい威力となっていた。

 

 ほとんどのチームの守備に難があるのも大きな要因で、強度と寄せが足りず応対と判断も良くなくマークも曖昧だった。

 なのでヘッダーが猛威を振るっていた。


 逆にそういったシンプルな攻撃をさせないように現在の守備戦術が組み上がっているのが理解出来た。

 現在の守備戦術は防衛機構の構築と攻撃の妨害に優れている。

 なのでクロスボールの出し手やサイドに展開する時点で封じられてしまうのだろう。

 だからトップチームには通用せず、成績もそこそこなんだろう。


 といっても戦術上の明らか間違いがある訳ではなく、むしろセオリーに則ったサッカーであった。

 多分モチベーション次第でプレー強度は変わるので、選手に個の力があればW杯でのクロアチア代表の様な活躍が出来る可能性がある、のかな?

 


 悲しい出来事もあった。


 ハンガリー代表のソボスライ・ドミニクが対ポルトガル戦で、フランス代表のマイケル・オリーセが対アイスランド戦で、それぞれ失点につながるパスミスを計上した。


 これは上手い選手・信頼される選手であるからこそ起こってしまったことなので非難されるべきではない、と思う。PKの失敗みたいなものだ。

 

 この二人は単にうっかりパスミスをした訳ではなく、チームが困っているのを助けようとした。

 ビルドアップの始点ディフェンスラインが相手チームの守備で追い詰められていたため、助力に入るも失敗したのだ。


 ビルドアップの目的は、ボールを運ぶこと。相手は邪魔をし、あわよくばボールを奪おうとする。


 相手守備を掻い潜ってボールを繋ごうとしても上手くいかない時、ボールを受けに本来もっと前にいる選手が現れた。それでも人数は足らず状況はさして変わらない。来た戦士が上手いだけだ。


 こうやってみんな頑張っている。目的はボールを運ぶこと。

 ベストの選択は前でフリーの選手にボールを渡すこと。では、セカンドベストは?


 この選択が出来ない。


 セカンドベストは、なんとかボールを受けられる選手を見つけることではないのだ。それでは現状と変わらない。


 ベストは利益の追求、セカンドベストは不利益の回避。

 全然性格が違うのだ。発想の転換が必要になる。

 

 具体的なプレーで言うと、ボールを外に蹴り出すこと。

 

 簡単な事だけど、皆さんこれ出来ますか?


 自分を含む集団で汗をかき集中し懸命に目的を果たそうとしている。

 こんな場面で、瞬時に発想の転換なんて出来ますか?


 皆が一生懸命ボールを繋ごうとしている中でボールを外に蹴り出す。

 これを出来るのは一部のゴールキーパーくらい、

しかもよっぽどドライな性格の。 

 ゴールキーパーは失点を何より嫌うしエクスキューズもあるから、たまにこういう人がいる。


 でも仲間から認められる中心選手にとって、この選択は難しい。

 プレーの向上ではなく、諦めの選択なのだから。


 責任感の強さが仇になるこの現象、落とし穴トラップはやはり非人道的だということだ。

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