派遣
「呼び出されてしまった」なんて言うとまるで悪いこと様に思えるけど決してそうではない。
俺が所属する剣魔傭兵団は剣士部隊と魔導士部隊、その2つの部隊がそれぞれさらに3つに分かれており、それぞれに部隊長が存在する。
ユシーナ隊長はその6つの部隊の中で唯一の女性であり、魔導士でありながらも自ら前線に赴き、魔術と合わせて剣を振るう姿から剛腕魔剣士という二つ名がついている。相対する兵士からしてみればやりにくいことこの上ないだろう。
ちなみに身長はバカでかい。
「入れ」
「失礼します!」
俺は恐る恐る部隊長専用のテントへと入室する。中は思ったより簡素なもので、ただ机と椅子が置かれているだけだった。もちろん机の上には地図やなんやらが散乱しているので、ただ簡素というわけではない。
「先の戦いはご苦労であった」
「いえ、俺は俺のやることをしたまでですので」
隊長が椅子に座るといきなり本題を切り出された。もちろん俺は直立状態でである。体調がよくなったとは言えもちろん元気溌剌なわけもなく、この状態が続くというのならなかなかに厳しいものがある。
「しかし早々に気絶とはいただけんな」
「申し訳ございません。しかし敵に甚大な被害を与えるためには気絶してでもあの規模の魔術を放つことが重要だと考えました」
あれ?俺は今から叱責されるのだろうか?これ以上は褒められるいわれはあっても責められるいわれはないはずだ。足の痛みを感じながら叱責されるというのはただの罰ゲームである。
「それは分かってる。私が言いたいのは気絶寸前までに魔力の消費を留めることはできなかったのかということだ」
「それは……自己管理不足でした。申し訳ございません」
これは……叱責というよりも理詰めという感じだ。なかなかに心がえぐられる……が、理詰めは理詰め、言ってることは正しいのでここは真摯に受け止めねばならぬところだ。
「頭を上げい。本題はそれではない。お前の武功を打ち消されるのにはあと20回気絶しても足らんわ」
「ありがとうございます!」
俺は素直に頭を上げた__鋭い眼光を放っているユシーナ隊長と目が合う。
「それで単刀直入に言おう。お前には私直属の魔導士による遊撃部隊、その隊長になってもらいたい__それに伴い魔導士の中から腕と性格、両方において信頼がおける人物をお前含め4人見繕って欲しい」
つまりは一個分隊の隊長への昇進ということだ。
傭兵になって一か月と考えると超スピード出世である。
「頼めるか?」
「はい。任せてください。今日中に報告します」
「期待しているぞ」
俺はその言葉を素直に受け止め、少々ぎこちない足取りでテントから退出した。
「シャバナどうだった!?なんか言われたのか!?」
と同時にルルゲラが勢いよく駆け寄って来た。
「なんか言われないと呼び出された意味がないだろ。んでとりあえずお前が1人目だ」
「は?」
さて、俺はユシーナ隊長との話の内容を一言一句間違ってないと言えるほどに正確にルルゲラに伝えた。
「なるほど……任せとけ!」
俺がルルゲラをまず1人目に選んだのはやはり魔術の腕という面も大きいが一番は信頼できるということだ。ユシーナ隊長に話したら「たった一ヶ月足らずの交流で何を分かった気になっているんだ」と言われてしまいそうなものだが、どちらにしろ俺が知っている中ではルルゲラの魔術の腕は一番だ。問題はないだろう。
「んでだ。お前にも聞いておきたいんだが腕と性格が両立している魔導士……できれば風魔術が得意だったり、身軽な奴がいい」
身軽なやつは言わずもがな、風魔術は他の魔術の中でも頭一つ抜けた射程を誇る。大事なのは水魔術や炎魔術も風魔術のサポートを受けることで射程を伸ばせるという点だ。
遊撃部隊というゲリラ戦を主にして戦う部隊にとっては、視界外から魔術による狙撃が何よりも重要となる。
「風か……それなら凄腕のやつを知ってるぞ。そいつは風魔術にしか適正がないが、だからこそ鍛えてるんだろうな。風魔術なら俺よりも得意だ。ただ……」
「ただ?どうした?年老いてるとかか?」
俺としては多少年を食っていても是非とも部隊に入ってもらいたい。風魔術の使い手というのはそれだけで価値がある。
「いや、身体的には今一番脂がのってる20代だ。ただすげぇひねくれ者なんだよ」
「ああー……」
「自分より年齢も経歴も下のやつに素直に従うか分かんねえ。それが少人数部隊となればなおさらだ」
しかしそれでも凄腕の風魔術使いはどうしても欲しい。言うなればパンに塗るジャムだ。なくてもいいがないと物足りず、ないよりかは絶対にあった方がいい。そんな人材だ。
「そいつは今どこにいるか分かるか?」
「多分風魔導士部隊のテントにいると思うぞ。行ってみるか?」
剣魔傭兵団はそれぞれが使う魔術の種類によってテントが異なっていた。ちなみにルルゲラは……。
あれ?こいつはいつもどこにいるんだろう。
まあいい。
「ああ。行こう。実際に会ってから考えるんだ。ちなみに名前は?」
「レジーナだ。ラストネームは知らん」
なんだかいろんなところを行ったり来たりしているような気もするけどもルルゲラと、俺はちょっと辛くなってきた足を引きずりながら風魔導士部隊が集まっているテントへと歩みを進めた。
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