復帰
「早く戻らないと……」
しかし、高鳴る思いとは裏腹、体が言うことを聞かない。立ち上がったはいいもの走り出せない。魔力は戻っても体力が回復しきっていない。
「ちょっとあなた何してるんですか!?休んでてください!」
「だけど戦わないと……」
「もう戦いは終わりました!私達の勝ちです!休んでてください!」
え?
「勝ったんですか?」
「ええ勝ちましたよお疲れ様でした早く横になって休んでください!」
そのあまりの剣幕に押され、俺は大人しく薄い布一枚の寝床に戻った__なるほど、負傷者がこんなにも運び込まれているのは戦いが終わったのもあるのか。
ともあれ寝床に戻ったところで一度目が覚めてしまうと騒がしさと悪臭合わせてなかなか寝付けない__座って壁にでも寄りかかっておこう。
「……気絶してからどのくらい時間がたったんだ?」
さて、となると気になるのはそのことだ。
まあ常識的に考えて流石に2~3時間といったところだろうが……そうすると俺は最初に一発ぶちかましただけで後は全部気絶していたということだろうか。
「すいません。俺ってどのくらいここで寝ていましたかね?」
「あなた大したけがもないのに真っ先に運び込まれてきて1時間くらい寝ていましたよ。他の人たちに感謝してくださいね」
露骨に嫌な顔をされてしまった。確かにこのクソ忙しい時に聞くことではなかったと反省する__しかし1時間?1時間といったか?流石に短すぎやしないだろうか。
「じゃあ1時間ちょっとで戦いも終わったってことですか?それはちょっと早すぎやしませんか?」
「なんかすごい魔導士の人がいたらしいですよもういいですか忙しいんです」
「あっ……すいません。大丈夫です」
すごい魔導士…………もしかしなくても俺のことではなかろうか。というか願わくばそうであってほしい。
流石にあれがすごくないのではこれ以上何をしろというのだろうか、これでダメならもう味方兵士ごと敵を焼き尽くすぐらいしか手立てがないぞ。
「おっ!シャバナ起きてんじゃん!見てたぞお前すごかったな!」
「ルルゲラ!生きてたのか!」
うつむきながら悶々としていたで気づかなかったが、いつの間にか傭兵仲間で魔導士であるルルゲラが救護室までやってきていたようだ。
「勝手に殺すな。魔導士なんか死ぬ方が珍しいだろ」
「どうして救護室に?どこか怪我したのか?」
「……?お前の様子を見に来てやったんだよ。倒れたお前を救護室まで運んだの俺だからな?」
「そうだったのか……ありがとう。助かったよ」
「なあなあそれより!あれどうやったんだ!?あの魔術から戦況が一気にこっちに傾いたんだよ。お前はこの戦いの功労者だぜ。もうあっちこっちで噂になってる」
ルルゲラもそう言っていることだしすごい魔導士は俺のことで間違いないのだろう。どうやら上手くいったみたいだ。
「単純なことだよ。封魔士が消すの追いつかない量の魔術を一気に放ったんだ。別になんの小細工もしてない」
「はー……シャバナお前とんでもねぇ魔力量だな。俺には到底無理だわ。お前には敵わねぇぜ」
「俺もルルゲラにできることができないし、お互い様だろ」
自分を卑下するようなこと言っているルルゲラだが、実は炎、水、土、雷、風、黒、白といった種類の魔術適正がある中で、黒以外のすべての魔術に適性があるなかなかの天才である。6つも適性を持っていたら戦略の幅は無限大だ。
ちなみに回復魔術や封魔術、あとはアティッカの監視魔術などは特殊魔術に分類され、その適性を持つものは炎や水などの基本魔術の適性は絶対に持ちえない。
……そういえば闇魔術はどの枠に入るのだろうか?また今度ヤタ神様に聞いておこう。
「そういえばお前自分が
「なんだその物騒な二つ名は」
血染屋シャバナってことか……
「それほど衝撃が凄かったってことだよ。戦場が一気に血に染まるから血染屋なんて、言いえて妙だと思うぜ。ご不満か?」
ルルゲラは軽く笑いながら俺をからかうように言った。
「不満じゃないが……二つ名なんて少し照れくさいな」
「そんくらい素直に誇っとけよ。二つ名が付くなんてすごいことだぜ」
ルルゲラは少し苦笑いをしながら言った。
「じゃあ俺が付けてやるよ。そうだな……6色の魔導士ってのは?」
「6色ってのが微妙だ。どうせなら7色がいい」
確かに6色は少々語呂が悪いかもしれないが十分かっこいいと思う。
「いいだろ別に。そうだキャッチコピーも付けよう!『多才による多彩!6色魔導士ルルゲラってのはどうだろうか?」
「俺はなんかの商品でもなんでもねえんだよ!」
「ハハハハハ!」
「っふ……ったく」
あまりにもくだらない会話に思わず2人とも笑ってしまった__ああ、楽しい。こんな楽しい会話は何年ぶりだろうか。会話して笑いあうなんていつぶりだ。
「そこ!うるさいですよ!元気なら出て行ってください!」
「「すいません……」」
しかし少々声が大きくなり過ぎたのは問題だった。俺達は救護室から追い出された。
いや、『元気なら出ていけ』というのは「病人なんだから静かに休んでおけ」の裏返しで別にあちらとしても本気で追い出すつもりはなかったのだと思うが体調がだいぶ良くなったのもあり、俺達は救護室から大人しく退出をした__したのだが。
「シャバナ・ララガードだな。私についてきてもらおう」
「ユシーナ隊長……!」
俺は
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