封魔士
「というかレジーナはいいとしてあと1人は決まってるのか?」
テントへの道中、ルルゲラにそう尋ねられた。もっともな指摘だ。
「ああ。誰かひとり封魔士のやつを連れて行こうと思っている」
「なるほど……そいつに防御は任せるってことか」
「その通りだ」
さてそんなことを話し合っているといると風魔導士部隊のテントについたので中に入り「レジーナってやつはいるか?」と声を掛けたわけだが、もちろんその瞬間魔導士達の視線が一斉に俺達に集まったわけで少々身がすくんだわけだ。しかしすぐに向けられている視線が俺より頭1つ分高いところと俺達2人を交互に見ていると気が付いた。
加えてその視線はまるで「なんの用だろう」という興味ではなく「どういうつもりなんだ」とう困惑の感情が込められているようで、しかし俺達はその意味をすぐに理解することとなる。
「私がレジーナだけど。なんか用か?」
咄嗟に声の出どころである後ろを振り返る__動きやすそうな男物の服を身にまとったスレンダーな女性がいた。それになんとまあ高身長である。恐らく185cmぐらいだろうか?俺達が気圧されるには十分の身長だった。
「ちょっと話があってな。ここじゃ話しづらいから場所を変えないか?」
「めんどくせえな。まあいいぜ付き合ってやるよ」
レジーナ……彼女への第一印象としてはただの高身長の強い女性という感じで、別にひねくれている部分は感じなかったけれども、先に言っておくと後に印象は変わったわけだ。
ただ、それを「ひねくれている」だけで片付けていいものかと俺はまた考える__案外、そんなことを考えているあたり俺も十分にひねくれ者なのかもしれない。
「別にいいぜ。でも頼み事の風して命令同然なのはいただけねぇな。お前と私は百歩譲って対等と言えるかもだが、ユシーナ隊長の命令を受けて動くお前とは対等じゃない。私が下だ。お前がやってることは命令と同義なんだよ。まったくいただけねぇよ」
「別に嫌ならいいんだ」
確かに命令同然のお願いだが、「見繕え」と言われただけなのでそこは俺個人の裁量でどうとでもなることだ。
「嫌だなんて言ってない。むしろこれはチャンスだって私は捉えているけどね。だったらなんであんなこと言ったかだって?人に決められたことにはちょっと反抗したくなるのが人間だからさ。みんなそんな私をひねくていると言うが、私に言わせれば私は誰よりも人間らしいのさ」
なるほど、ひねくれていると言われる理由が分かった気がする。
「ありがとう。心強いよ」
「んで、私はこれからどうすればいい?」
「ルルゲラと一緒についてきてくれ。4人集まったらそのままユシーナ隊長に報告に行く」
「じゃあそういうことでよろしくなレジーナ!また今度風魔術のコツ教えてくれよ」
「嫌だね。私のアイデンティティを奪うんじゃない。それにお前はもう充分一流だろう。いただけないね」
「つれないなぁ」
ルルゲラがレジーナを紹介する口ぶりから察してはいたが、やはり2人は知り合いらしい。俺が使えない風魔術の話で盛り上がられると疎外感を感じてしまう。
というかその一流であるルルゲラを持ってしても「俺より上」と言わせてしまうレジーナは何者なのだろうか――いやしかし、こう見ていると盛り上がっていると思っているのはルルゲラだけで、レジーナは一方的に話しかけられているのをいなしているだけとも取れる。
「そうそう。2人ともいい感じの封魔士を知らないか?」
「……そのことだけど、俺に任せて欲しい」
ルルゲラが妙に自信ありげに言った。
「別に構わないけども……なんかいい当てがあるのか?」
「そりゃこんなこと言ってるんだから当然あるに決まってるだろ。なぁ?」
レジーナが少々いやみったらしく口を挟む――しかし、俺にはこれがルルゲラに対する信頼の表れのように思えてならない。まあもとの性格も当然あるのだろうが今までの会話からそう推測する。
「もちろん。ちょっと癖のあるやつなんだがちゃんと説得してみせるさ。1時間ほどここで待っててくれ」
「分かった。任せたぞ」
俺の言葉を聞いたルルゲラはどこかへと向かっていた。本当にどこかへと行ったとしか言えない。
なぜならルルゲラは封魔士達がいるテントとは真逆の方向に進んでいったからだ。とても気になるところだが、ここは信頼して任せることにしよう。
「さてシャバナ。ちょっといいか?」
――――――
「なるほど。なかなか曲者揃いだな」
ユシーナ隊長が唸るように言った。
「それにしても本当に1日で揃えるとは……関心したぞというところで早速お前らに初任務を与える」
あれから何事はあったものの4人揃った俺達は隊長から任務の説明を受けることになった。
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