力の代償
「お前……吾輩の力を雑に扱いすぎではないか」
見渡す限りの真っ黒な空間__ここへ来るのは一か月ぶりだ。
「お久しぶりですヤタ神様。ちなみにここはあなた様の精神空間であってますよね?」
実はここが地獄でもうすでに死んでいます……なんてたまったもんじゃない。
「そうだ。今日は一つ忠告してやろうと思ってな」
「忠告?」
ヤタ神様からの忠告というと幾度となく受けていたような気もするが、どちらかというと小言といった面が大きかった__きちんと忠告と告げられたのは今回が初めてだ。
「現実世界でのお前は今、魔力の使い過ぎによって気絶している。それがどういう意味か分かるか?」
「……?さっき言われた通り魔力の使い過ぎといっただけでそれ以上もそれ以下もないのでは?」
「馬鹿者め。お前は今吾輩と契約して地獄の魔力が潤沢に使える状態だ。その魔力を全部使い果たしたところで本来なら気絶などするはずもなく、魔力だってすぐに補給される__じゃあなぜ気絶したのか分かるか?」
「……本来俺が持っている魔力も使い果たしたからですか?」
「そうだ」
「それになんの問題が?」
あいにく俺はそれが何を意味しているのかが分からなかった。『使い果たしちゃったね』で終わりなのではないのか?こんなのではまた馬鹿者と
「自分の体の異変に気付かないのか?気づいているけど気づかないふりをしているだけなのか?それとももうすでに自分の体なんてどうでもいいのか?」
ヤタ神様のいうことは言いえて妙だ。俺はもうすでに気づかないふりをしている自分にも気づかないほど自分の体なんてどうでもいいのだ。
「それで……結局何なんです?俺本来の魔力も使い果たして気絶したら、何が起こるって言うんです?」
「吾輩の姿へと体が近づいていく」
「え……?俺があなたのような神になるってことですか?どうして?」
思わず俺はヤタ神様を凝視してしまった__4本の腕、片方しかない翼、俺にもそれが生えてくるのだろうか?
「正確に言えば吾輩は神でお前は人間なのだから何が起こっても同一の存在になることは決してない。しかし、お前本来の魔力が入っている器に地獄の魔力が流れ込むことで、地獄の神であり、地獄そのものともいえる吾輩の姿へと限りなく近づくようになる__魔力に合わせて体が作り変えられるのだ」
「__なるほど分かりました。頭の片隅にでも入れておきます」
その体の変化くらいなら俺にとってもうどうでもいいことなのだが……目立つようになるのも避けるためにはなかなかどうして重要なことに思えた。
「……地獄の神である吾輩が言うのもなんだが、もう少し自分を大切にした方がいいと思うぞ」
「親みたいなことを言いますね。ほどほどに大切にしますよ」
「吾輩にとっては島民全員子供ようなものさ」
「だったら……!」
「だったらなんで守ってくれなかったのか」とは言えなかった。言うつもりだったさ。でも……ヤタ神様の顔が子を持つ親の顔になっていたのを見たら、そんなこと言えるわけがないだろう__アティッカの両親も同じ顔をしていたな……
「だからここまで頑張っているお前に親として
ヤタ神様が4本あるうちの一本を俺に向かって差し伸べ、そこからドス黒い光が伸び俺の胸を貫いた。
特に何か変わった感じはしないものの、変わった感じがしないというのがもうすでに変わっている証拠なのかもしれない。
「必要な時が来たら力の使い方もわかるはずだ」
「どうも……」
「もう時間がないな。そろそろ現実のお前が目を覚ます……さらばだ。また会おう」
「ええ、次会う時が地獄じゃないことを祈ってます」
______
俺は人の叫び声と歩く音で目を覚ました__背中が痛い、何処かに寝かされているのだろうか。体もだるい。目を開けるのが億劫だ。ツンとした血と汗の匂いも俺の鼻をくすぐっている。
俺はその状態からなんとか上半身を起こして辺りを見渡した。
なるほど……ここは野営地内の救護室らしい。回復魔導士らしき人達が室内を慌ただしく駆け回っており、ベッドには負傷者たちが寝かされている。
ふと、俺は自分がベッドではなく床に寝かされていることに気づいた。
ベットが足りないんだろう。周りを見ても軽傷者は薄い布を敷いただけの床に寝かされるらしい。
「助けてくれ重傷者だ!血が止まらねぇ!」
入口にかけられている幕が押し上げられ、兵士が背中に人を担ぎながら駆け込んできた。
そこへ1人の魔導士が急いで駆け寄る。
「どうしましたか!?こちらに寝かせてください!」
「魔術に撃たれて右足が吹き飛んだ!血が止まらねえんだ!」
ベッドに寝かされた兵士には確かに右足がなかった。傷口からは血がどくどくと流れ出ている。どうやら意識も失っているようだ。
「
「どうした!?何かまずいのか!?」
「止血はできました……ただ血を失い過ぎています」
「どうしたらいい!?どうしたら助かる!?」
「……後はこの人の頑張りにかかってます」
「クソッ!」
殺伐とした救護室の中で俺は無力なのを痛感する__こうしているうちにも次々と新しい負傷者がテントの中へ運びこまれていた。
そうだ……まだ終わってない。戦わなければ。武功を挙げるんだ。
俺は自分を奮い立たせ勢いよく立ち上がった。
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