傭兵編
戦争
「……物思いにふけってる場合じゃないな」
斬撃が舞い、魔術が飛び交う戦場__その後方に俺はいた。かくいう俺も戦闘に参加して魔術を撃ち続けている真っ最中だ。彼方前方では敵か味方かも分からない血しぶきが舞っている。俺はもちろん血しぶきを舞わせている。
「敵の勢いが強まってるぞ!撃ち続けろ!」
後ろから声が響く__レブルズに入って一か月、俺は今、傭兵としてスタリカ王国とバルメニア王国の戦闘に参加していた。
あの日、歓迎会は何事もなく行われアティッカの両親も俺と共にレブルズのメンバーとなった。そんな俺に俺に今後の活動方針として告げられたのが『待機』だった。
その理由としては1年に1度、王宮に貴族と国王が一堂に会する晩餐会……その時を狙って他の組織とも協力した襲撃計画を立てているらしく、それまでに貴族の暗殺などを繰り返して警戒心が高まるのはまずいということだった。
少しずつ殺してわざわざ警戒心を高めるくらいなら一気に殺してそのまま政権を奪い取ろうということらしい。
今でも貴族はすぐにぶっ殺してやりたいと思っているが、一番確立が高い作戦に従うのは俺としても納得のいくことだった。
それでなんで俺が傭兵になっているのかだが……二つ理由がある。
一つ、貴族になるためだ。戦場で武功を上げ、貴族になることで晩餐会に参加し、情報を横流しにしつつ中と外から叩く。
二つ、これは一つ目と関連することでもあるのだがレブルズ組織内での出世だ。組織のボスへと会える立場まで出世することで直接感情操作の件を問いただす。
二つ目のことはできるだけ性急に行わなければならない__いつアティッカ達が魔術をかけられるのかが分からないからだ。
これには様々な手段がある。とにかく有用性を示せればいいのだ。その中で貴族になるのは一つの手段に過ぎない。
そんな訳で今現在俺は戦闘中だ。ちなみにこれが初陣でもある。
「
魔術で生成した弾丸が空気を切り裂き敵兵へと一直線に向かう。
今現在、俺は黒仮面として国指名手配されている。手配書を見ると俺の背格好や使っていた魔術までもが正確に記されていた__さすがにその魔術を使うわけにもいかずただの黒魔導士として戦争に参加しているのだが……
「……弱いな」
黒魔導士の本領は睡魔、頭痛、腹痛、気だるさ、酔い、筋肉痛といったありとあらゆる体調不良を引き起こす妨害魔術だ。
しかし妨害魔術というものは目に見えて分かりにくく武功として判断されにくいのだ__なので攻撃魔術を使っているのだが最前線で戦っている兵士達と比べると……やはり物足りない。
魔術適正がもう一つでもあればよかったのだが……あいにく俺は黒だけだ。闇魔術は使えないし……どうしたものか。
「物量……かな」
魔導士はそもそも目立った武功が立てにくい__なぜなら味方兵士を巻き込まないように大規模魔術を使ったとしても魔術を防ぐことに特化した対魔導士専門家である封魔士によってすぐにかき消されてしまうからだ。故に魔導士はちまちまと敵軍を狙い撃つしかない。
だがそんな封魔士への対策だが実は単純明快。消しきれないほどの物量でゴリ押しである。幸いなことに地獄の魔術は使えなくとも魔力は使える。同じ魔法でも威力は比べ物にならないはずだ。
「ふう…………」
この時点で普段射出する50倍以上もの弾丸が生成されていた。だがまだ足りないもっと自軍にアピールするんだ。それに50倍ぐらいなら1人で全部かき消されてしまう。
300……400……クソッ消され始めた!だがこの離れた距離じゃ僅かな魔力しか届いていない!いいぞ!生成スピードの方が上回っている!
「お前何してるんだ!そんな生成しても全部消されて終わりだぞ!」
「こんな数ごときじゃな!まだまだだ!」
今この場にいる魔導士たちの好奇の視線が分かる。俺に深々と突き刺さっている__いいぞ!ちゃんと見とけよ俺の勇士!
「いやまて……何だその数は!」
700……900……1500……2000!2000倍の数で敵兵を蹂躙する!
「漆黒の
弾丸が射出される__やはり封魔士の射程圏内に入った途端みるみるうちに減少している__だが!
刹那、複数の……数え切れないほどの巨大な断末魔が響き渡り、戦場に巨大な赤い花が咲いた。生き残った半分の弾丸、さらにその弾丸の四分の三ほどが敵軍へ命中したことが見て取れた。血しぶきが舞っている__少々後方を狙ったので自軍の犠牲者はいないはずだ。
気づけば仲間の魔導士だけでなく、最前線で戦っている兵士も後方にいる俺を見つめていた__何してるんだ戦え。油断するんじゃねえよ。
だがその時間もすぐに過ぎ、戦場は元の風景を取り戻した。元の血みどろの戦いだ。
「はあっ……はあっ……」
一度に魔力を消費しすぎた。目の前がくらくらする。今にも倒れてしまいそうだ__まだだ、もっと見せつけてやらなければ。貴族になるには隊長格になり、作戦を指示する立場になることが絶対条件だ。まだ足りない。まだ倒れてはならない__打ち続けるんだ。
しかしそんな抵抗も空しく、俺の意識は闇へと吸い込まれていった__意識を失い行く俺にできるのは次に起きるところが地獄ではなくベッドの上であることを祈ることだけだった。
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