第12話 火花
「ケーキ美味しかったなあ。光姫は満足した?」
「うん!!ちょー美味しかったんだあ!」
「あ、綾乃!!口にケーキついてるぞ!」
恋ちゃんはそういうと綾乃ちゃんに近寄って――
「ありがと恋……って!?――な!」
綾乃ちゃんと恋ちゃんの距離がギリギリまで縮まる。恋ちゃんは綾乃ちゃんの口もとに顔を近づけた。恋ちゃんの息が頬にかかる。
「はぅぅ………恋…」
――――そして綾乃ちゃんは顔を真っ赤に染めて、目を閉じた。
「…………んっ////」
――――パクっ
「……きゃっ!――ってあれ?いま、うちキスされた……??」
「あやのんキスじゃないよ、れんれんがケーキ食べただけ…ぶふっ」
「………なぁぁ…………もう!!恋のバカバカバカ!信じらんない!鈍感バカ!」
「いてっ!…うわ〜ん綾乃許してー!!ついてたケーキ食べたこと謝るから〜!」
綾乃ちゃんはずっとポカポカと恋ちゃんをなぐっている。
「ふふっ…なんか可愛いなあ」
「ねっ。素直じゃないんだから……ってそれは私もなのかな………?」
私達はケーキを食べ終えて誕生日パーティーを楽しんだ。四人の和んだ空気は、私の張りつめた気持ちを安らげてくれた。
◇◇◇
「ねね!花火しない?光姫こんなもの持ってきたんだあ」
じゃじゃーんと口にしながら取り出したのは市販の花火セットだった。よくある何種類かついてるやつだ。
「うおー!!わたしやりたいぞ!綾乃も海夏もやるよな!」
「しゃ〜ないな〜。行こっ、海夏」
綾乃ちゃんたちについていって庭先にでた。まだ夕方だからそこまで暗くないけど、コオロギがすでに鳴き始めていた。
光姫ちゃんはいそいそと花火の準備をしている。恋ちゃんは興味津々だ。
「よ〜し!せっかくだから線香花火やろ!はい、海夏!あやのんもれんれんも!」
「うち絶対負けへんで〜〜!代々伝わる秘伝の技があるんやから!」
「え、綾乃ちゃんそんなのあるの?」
「相手の火を全部消したら勝ちやで!!」
それ反則じゃ……。まあ綾乃ちゃんはそんな事言っても絶対やらないんだけどね。
「よ〜し火つけよ!」
火のついた火薬から、独特の匂いが鼻をツンと刺す。次第にパチパチと音ともに先端から光が散る。
「お!ついたよ……」
…………………。
なぜか線香花火ってやる前騒がしいのにやってる時って静まるよね……。
四人の線香花火から綺麗な光が流れていく。少し経って綾乃ちゃんの火花が散ってしまった。
「……あ〜ん。うちの皇帝ロケット丸三号があ〜」
「綾乃これロケット花火じゃないぞ、あ……!あ、綾乃〜〜。……うう……」
「も〜、よしよし。恋は可愛いんやから……」
二人はほんの十数秒で消えてしまった。私はふと顔を上げて光姫ちゃんの方を向く。
「「あっ…」」
光姫ちゃんの瞳には私の線香花火は映っていなかった。線香花火の音が聞こえないほど、意識が引き込まれるような……そんな沈黙だった。
花火の輝きをおさめる瞼が――その睫毛のまじろぎが可憐で……見惚れるような美しさだった。
「ね。海夏と光姫の花火、ずっと消えないね……」
「うん………」
「来年もこうして四人で遊びたいなあ…海夏もまた来年、光姫の誕生日祝ってくれる?////」
「……うん、もちろ――――あっ……消えちゃった……」
「あちゃあ……海夏っ、光姫のぶん貸したげる」
私の手元から火花が離れていく。
散り際はどこか切なくて、私の心を冷たい風がもてあそぶような……そんな感じがした。
それは、儚くて…ひどく脆いものに思えた。
『花火』。
その言葉に。
(ああ、そうか………………)
私は、あの日の事を全てを思い出した。
◆◆◇◇
光姫ちゃんは……あの日、一人で花火大会に行った。
綾乃ちゃんや恋ちゃんはその時ちょうど風邪を引いてて……。
私は――――
あの時、蓮太に告白されて……断りきれなかった私は、ズルズルと友達以上恋人未満の関係を続けてしまっていた。
本当に蓮太が好きだったわけじゃない。でも、蓮太は凄く優しくて、大人っぽくて。当時の私はその好意を突き放すことが出来なかったんだ。
少しずつ私と光姫ちゃんの間に溝が生まれた。『避けられている』って――――勝手にそう思った。
――――光姫ちゃんは、私が蓮太と花火を観に行くと思ってあえて誘わなかったんだ。……私と蓮太のために距離を置いていた。
二人で観に行きたい。そう思ってずっと楽しみにしていた花火大会を我慢してまで……
……光姫ちゃんは私のことが好きだった。でも、それと同時に私に対して臆病でもあった。
蓮太と笑う私を見て……酷く痛み、荒む心に気づかないふりを続けた。『海夏に嫌われたくない』。ただその一心で。
どんどん弱っていく光姫ちゃんに、私は上手く声をかけることが出来なかった。
だって――――全部私のせいだったから。
あの時、勇気が出なくて光姫ちゃんに『好き』と伝える事が出来なかったから。
あの時、蓮太の告白をハッキリと断ることが出来なかったから。
全て私のせいだった。
――――そしてそれは、最悪の結果を招いた。
◇◇◇
二〇〇三年八月十日。花火大会で起こった事故。その日、多くの人が亡くなった。
原因は花火の暴発。
打ち上がる前に次々と爆発した花火は……多大な犠牲者を生んだ。
最前で花火を見ていた光姫ちゃんも、その例を逃れなかった。
でも、私なら。
――――私と二人なら、光姫ちゃんはきっと最前列で見ようとはしなかっただろう。控えめで人の苦手な私のことを思って、きっと後ろの方で見たはず……。
私があの時あそこに居れば、光姫ちゃんは……。きっと死ななかった。
今と同じようにずっと隣で微笑みかけて、優しい言葉で甘やかしてくれただろう。明るく元気な光姫ちゃんと……仲良しの四人で祭りに行けていたはず――――。
また四人で誕生日を祝えていたはず。
ああ、まただ……。そうだ、私はずっと。何年もこうやって…あの日光姫ちゃんを呼び止める事が出来なかったことを後悔してきたんだ。
どうして忘れていたんだろう。
◇◇◆◆
「光姫ちゃんっ―――――!!!!」
静寂を切り裂くように、私の声が庭全体に響き渡った。
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