秋
「足りないって何が?」
至極当然の疑問である。半年以上かけて町の調査をして、ノートに記録までしてるというのに、まだ興味が尽きないらしい。
「いやね、確かに地図作ったり今までのメモまとめたりしたけどさ、一つ重要な記録を忘れてたんだよ」
「それは何さ」
私もしっかりとその中身を見たことはないが、かなり熱心に取り組んでいるのは間違いない。何があるというのだろう。
「写真だよ写真! 今の今まで一枚も撮ってないよ!」
「あっ確かに」
「由衣この後空いてるよね? 撮ろ」
「もー土日にしなって」
「私も忙しいんですよー」
しばらく長期休みがないということで、結局放課後に色々やっている。杏子も前ほど猪突猛進ではなくなったが、相変わらず下手な部活より時間と体力を使う。そしてやることが決まればすぐに教室を飛び出す。
「よし、まずはこの町のおすすめスポットを撮影しよう」
「一体誰向けの資料なの?」
「さあね。まずは町のアイドル由衣ちゃんから~」
反応する暇もなくスマホのシャッター音が鳴る。相変わらずだ。別に嫌なわけではないからいいのだが。
「私スポットなんだ。動くけど」
「あら、私の隣にずっといるからてっきりスポットかと」
「もう。いいから次行こ」
彼女がおすすめスポットと謳うような場所は私にとっても馴染み深い。だから、勝手に聖地巡礼の気分になっていた。時折二人にしか縁のない場所も撮っていたが、それはおすすめになるのだろうか。でも、彼女の表情はいつになく真剣だ。いつもの夢中になっているときとは違う静かな顔。知らない顔だった。
「今日はこれくらいかな。暗いと撮れないし」
「そうだね。じゃあ、また明日ね」
「ねえ由衣、私の写真も撮ってよ。……ほら! 私が作りました~的なの欲しいし」
「農家か何か? スマホ貸して」
「ん」
スマホを受け取り、レンズを杏子に向ける。画面の中の彼女は、小さく笑っていた。また、知らない顔だった。
「ほら、もっと笑って!」
「う、うん!」
画面から目を離し肉眼で確認すると、既にいつもの笑顔に戻っていた。少しだけ怖くなった。
「はい。撮れたよ」
「ありがと……あのさ」
「うん」
「由衣って将来やりたいこととかある?」
杏子らしくない質問。風の音、落ち葉が擦れる音が急に大きくなった気がした。でも、素直に答える。
「どうしたの突然。うーんまだないかな。私達高一だし」
「そ、そうだよね! あはは」
「悩みでもあるの? 杏子」
「ううん、なんでもない。気になっただけ! いつものことでしょ。……じゃあ私もう帰るから! じゃね!」
そのまま走り去る彼女への返事はできなかった。私が知らない表情をしてた。いつも自分が気になったものを追い求める杏子が質問をはぐらかした。すごく変だった。
全然、分からない。君島杏子という人間が急に分からなくなった。
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