この暑さははっきり言って異常だ。人類が外に出ていい気温をしていない。蝉は鳴かないし、川の水もぬるい。甲子園は点差より足がつる選手の多さの方が気になる。そんな、この季節の悪い部分だけを残したディストピアに私と君島杏子が歩いている。


「ねえ杏子、ちょっと暑すぎない? 流石に休憩を……」

「ぐえー。そうだね。一旦コンビニだ」


 今日出かける誘いをした杏子に説教を……と言いたいところだが、今回は私が企画したのだ。

 前提として、彼女は下校の度に路地に入ろうとする。最初はそれだけだったのだが、町内の掲示板の数だとか、公園の位置だとか、次第に下校の域を超え始めた。

 そこで私は提案したのだ。しっかり準備して長期休みを使い一気に終わらせる。なんなら自主的な自由研究にでもすればいいと。案外すんなり受け入れてくれた。こちらの方が効率的だと勝手に納得した様子だった。まあ、その結果がこの惨状なのだが。


「着いた着いた」

「「……涼しい」」


 自動ドアの先から自動的に流れ出る人工的な涼しさを噛み締め、私達は中に入る。


「アイス買お」

「いい提案だ由衣隊員。私はブドウのやつとバニラが食べたい。でも二つも買ったら溶けちゃうなあ。どうしよ?!」

「私とはんぶんこしましょう。隊長」

「なかなかやるね。二階級特進だ! 由衣隊員」

「……どういう意味?」

「へへ」


 冷風は脳まで冷やして、杏子の適当な茶番に付き合う余裕を与えてくれた。エアコンを堪能するため買いもしないお菓子や雑貨などを一通り流し見した後、アイスを買って店の前に佇む。


「……」

「……」

「「暑い」」

「早く食べよ。暑いし」

「そうだけどさー、こういうコンビニってだいたい日陰のベンチあるじゃん!直射日光なんですけど!」

「少なくとも都会じゃ空想の話だね」


 実際、あってほしかった。このままでは人類そのものが二階級特進してしまいそうだ。


「あっそうだ! 由衣来て!」

「え、な!?」


 返答する間もなく手を引かれ、この猛暑の中全力疾走している。彼女に手を取られた以上、停まることも離すことも許されない。そんなことをしても無理矢理引きずられるであろう。できることは一つ、ただ着いていくことだけ。


「んちょっと! どこ行くの!」

「いーからいーから!」


 アイスが入ったビニールが大きく揺れる。いつもの景色が早送りみたいに流れていく。そしてたどり着いたのは少しだけ懐かしくて、それでも最近来たことがある気がしてしまう場所。


「……はあはあ、ここって……」

「そう! 一番最初に来た路地! ここなら座れそうなコンクリートの段差があるし日陰かなって!」

「ふふっ……あははは!はは……はー」

「どしたの」

「なんか……面白くって……! でもね杏子、悲しいお知らせがあって、杏子が無理矢理連れてくるからアイス粉々になっちゃった」

「あっはっはっ! あはは! ……まじか、やらかした!」


 その瞬間だけは何もかも心地よかった。いい夏になるって、そう思った。


 

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