季節は君と共に

山野誠

「ねえ、こっちの道何があるか知ってる?」


 私の隣、正確には半歩ほど前を歩く少女が問いかける。


「知らないけど、多分遠回りだよそっち」


 私はいなす。これは少々危なっかしい彼女への親切心からくる言葉である。まあ、桜が散り始めたこの季節ではまだ新しい環境に適応し切れておらず、早く帰宅したいという魂胆もあるのだが。


「ふーん。じゃあ行ってみよ!」

「何もないと思うよ?」

「そのときはそのときだ」


 私は知っていた。彼女は止まらない。それは最初から不変である。

 

 入学初日から隣の席の私に話しかけてきた。そこまではいいのだ。むしろありがたい。しかし、私が放られたボールを落としても、構わず投げ続けてくる。それも不規則に。その間にも、それを空の彼方に飛ばしたり、手のひらで転がしてたり……。その日はもう投げ返すのを諦めてしまった。

 つまるところ、彼女は変だ。それにどう対応したかというと、慣れ以外の何物でもない。次の日も、その次の日も変わらず変だったから、次第に私の中でそれは普通になった。名バッテリーの誕生である。


「分かった。ちょっとだけね」


 短い期間でも分かったことはいくつかある。その中でも最初に気がついたのは、彼女にやりたいことをやらせた方が大抵物事は早く進むということ。もちろん止められるもの、止めなきゃいけないものには口を出すが、今回のようなケースはこれ以上何も言わないのが吉だ。


「住宅と、よく分からないコンクリート。おー、こりゃ路地だ」

「そりゃ路地だもん」


 通学路とは違う、足音が響くくらい物静かな雰囲気に気圧されてなんとなく声量を抑えて会話する。以外に彼女も私と同じ発想をしているようだ。


「あ!」


 急に大声を発するので少し驚いて彼女を、次いで前方を確認する。


「……あ」

 

 私も気づく。これは――


「「行き止まり」」


 路地に入ってから直進して数十メートルしか歩いていないのだが、唐突に彼女の小さな冒険は終わりを迎えた。


「ほらね? 何もなかったでしょ?」


 すかさず私は少しだけ勝ち誇ったように言う。


「いいんだよ。何もないってことを知れたからさ」

「なんだそりゃ」

「それにさ、楽しかったでしょ?」

「……まあね」


 それを聞いて、私の中で何かが変わった気がした。その何かはうまく説明できないのだけれど、少しだけ悔しくて、少しだけ面白い、そんな感じ。

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