第13話 第1節 エルフと海の瞳

「うわああ、気持ちいい~~~~~~!」


 わたしは柵に手をつくと、感じるまま目いっぱいに叫んだ。目の前には広大な海原、押し寄せる潮風。後ろでは、オーダイトの大地が流れていく。


 やっぱり船旅はいい。列車と違って自由に歩いていいし、甲板に出れば移り変わっていく空気を直に感じられるから。


「ようやくモデル校が出揃ったね」


 サイルが傍らに立って言った。乱れた髪を抑えながら目を細めている。

 彼女の言う通り、昨日、最後の地域学校である、群島地域学校の入学式に立ち会ってきたところだった。


 これで、わたしたちが直接関わる学校の立ち上げは終わり。


 あとは地域学校を中心にして、各地域に学区を設定して普通学校を置いていく。地域学校は一貫だけど、普通学校は小学校、中学校、高学校と三年ずつ分けて設置する予定だった。


「大変かなーって思ったけど、首都学校ができてからはトントン拍子だった気がする。やっぱり決まりができちゃうと早いなあ。あと、地域の人たちがみんな協力してくれたのも大きいよ」

「そうだね。早かったっていっても、最初の入学式から五年くらい経ってるけど」

「ひゃー、そんなに……あ、でも、クラリスさんはもっとかかるって言ってたっけ」

「うん。九年とか」

「あ、そうそう。なんでだろってこの前、クラフデンの教育史見たら、あっちだと七年かかってた」

「へえ。私たちの方がずっと早いね。まあ、クラフデンの方が土地広いからかな」

「でもオーダイトの方が島だらけ山だらけだよ」


 最近、サイルと話すのは仕事のことばかりだった。まあ、お互いこれ以上知るようなこともないから当然だけど、ちょっと寂しい。


 なんて思いながら海の方に目を向けると、絶妙な角度で陽が差して、水面が宝石みたいにきらきら瞬いていた。


「あ、見て、海がサイルの瞳の色みたいになってる!」

「え……こ、こんな綺麗じゃないよ」


 ぷい、と顔をそむけて、目を見られないようにしてしまう。ふふ、照れちゃって。


 サイルといると時の流れを全く感じない。何年一緒にいても彼女は全く変わらず、ずっとかわいいまま。

 本当のわたしのことも受け入れてくれるし、仕事も淡々と潰してくれるし、一緒に遊びに行ってもくれる。本当に素敵な人だった。

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