第12話 第1節 アンデッドと初めての入学式

 オーダイト国立学校は首都中心部に設けられた、オーダイト学制初の学校であり、これから続々と建てていく学校たちの試金石だった。


 入学は希望者のみ。入学費・授業料は無償。


 現実的には首都地域の住民しか通えないのに、他地域からの入学希望も集まるほどで、抽選で選ばれた三五〇人の児童が一期生として入学する。


 そうして迎えた入学式の日。


 講堂に並べられた椅子に、制服を着こんだ子どもたちが並んで座っている。


「すごい、本当に、子どもたちがあんなにたくさん!」


 舞台の袖からその様子を見たリアはすごい爛々とした目をしていた。いつもなら子どもっぽいなと微笑ましくなるところだけど、これまでずっと準備してきたものが実現しているわけで、私も興奮していた。


「リア、みんなを退屈させないでよ。校長の話は長くて退屈って他の国じゃ定番になってるんだから」

「大丈夫! あと、校長じゃない、理事長ね!」


 校長は教員たちの責任者で、理事長は運営的な側面の責任者になる、らしい。私は教育担当官補佐、兼、理事長秘書になるわけで、これからどうなってしまうのか少し怖い。けど──。


「こんにちは、理事長のリア・メロウルです! みなさん、この度はご入学おめでとうございます! この場でみんなに会えたこと、わたし、とっても嬉しいです!」


 私の不安を吹き飛ばすくらい有頂天なリアのスピーチに笑ってしまう。


 一方、子どもたちもエルフの理事長が出てきて、目を大きく見開いている。

 エルフは有名な種族ではあるけど、子どもの目に届かないところにいがちなので、もの珍しいのだと思う。


 そうでしょう、綺麗でしょう、と私がなぜか誇らしい気分だった。浮かれてるなあ。


 リアのうきうきなスピーチが終わると、今度は入学生代表の挨拶に入る。これは応募が一番早かったセレン・バトラーくんという男の子に託されていた。


「僕には夢があります。海の中がどうなっているか、実際に見ることです。オーダイトを囲む海の底が、どういう形をしているか、村中の人に訊いたけど誰も知りませんでした。だから僕は、この学校でたくさん勉強して、海の底の地図を書いてみんなをびっくりさせたいです」


 目元のくっきりした利発そうなその男の子は、平地に赴いた職員の調査報告にあった海の好きな少年だった。入学を期に首都に移住してきたとか。


 確か、リアが気にかけていたはずだと思い、スピーチから戻った彼女の顔を見て、驚いた。リアは大粒の涙をぽろぽろ流して、しきりにハンカチで拭っている。


「リア、だ、大丈夫?」


 彼女の泣き顔には、いつかの大腹痛を思い出してしまう。

 心配になって小声で言うと、リアは潤んだ目を私に向けた。


「あ、ごめん、平気。な、なんか……ちゃんと、あの子が望んだ道を歩けるお手伝いができたんだなあって思ったら……すごく感動しちゃって……」

「まだ入学式なのに……」


 気持ちはわかるけど、これで卒業式が来たらどうなってしまうんだろう。

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