第6話 第1節 アンデッドの夢見気分

 首都で新たに建築された治部の庁舎、その一室に「学校制度研究事業部」(長いので「教研部」と呼んでいる)所属の面々が集まっている。


 十五年から二十年とか無茶な求人だと思ったけど、倍率はなかなかのものだった。応募者のほとんどがなんらかの形で「教える」ことに従事してきた人だとか。私のように単に長く従事できるという理由で選んだ人は少なく、いても書類で足切りされていたみたいだった。


 人員は十四人。人間が十一名で、ほかハーピー、狼種獣人、草木人フロラリン(落葉種)。担当官……リアと私、あと外国人顧問のクラリスさんを含めると、異種族の割合は三割半、私の経験した仕事で最も多い。


 年齢感は熱心な若い人間の青年から、上は壮年の狼の人まで幅広い。まあ、一番の年上は当然、エルフのリアということになるけれど。


「教育担当官のリア・メロウルと申します。オーダイト全域への学校の敷設という、気の長い事業になりますが、何卒、よろしくお願いしますね。えっと、それではまず、この部署での勤務についてなんですけど──」


 前に立ったリアは颯爽と話し始め、さっそく職員から好感触を得ている。街にいるエルフは街の基幹保守的な業務を担っていることが多いから、こういう事業で指揮を執ることは珍しい。リアの存在感は「学校敷設」という事業を特別なものに感じさせる。


 そんな彼女を、私は、名前呼びしてしまっているわけだけど……。


 フラットな接し方でいいと言われた時は「無理」と思った。だって、何年の歳の差があるのかわからない。彼女の年齢は知らないけど、責任者として赴任している時点で、絶対に三百は越しているはず。同じ長命種と思うことすら恐れ多い。


 だけど──どうしても、嬉しさの方が勝ってしまった。


 突き抜けて秀麗な彼女から、そこまで期待を寄せられていること、親しくしたいと思われていることは、私にとって慈雨に等しいものだった。

 気ごころの知れたように「サイル」「リア」と呼び合えたら、どんなに素敵だろう。


 そんな妄想に火がついた途端、すっかりたがが外れてしまった。たどたどしく対等デビューを飾った私に、リアは「かわいい」とくすりと笑った。

 お腹の底からぐわっとなにか、噴きあがったみたいだった。


 かわいい。かわいいんだ──。


 すごく嬉しかった。まずい。今も口角が上がりそう。わからないけど、こんな気持ちの悪いアンデッドはどこにもいないと思う。


「──って感じかな。まあ、不明点あったらわたしの補佐兼総務のサイルに聞いてください」

「あ、えっ」


 突然、話をふられて私は混乱した。見ると、部署の視線が私に集中している。

 思わずリアを見ると「挨拶して」という風に手のひらを差し向ける。前に向き直ると、変わらず、たくさんの目──。


「すみません、サイルです……」


 結局、腰をちょっと浮かせ、ペコっとを頭を下げることしかできなかった。


「シャイな子ですけど、すっごく仕事できるんです。全然、わたしなんかより!」


 リアが機転を利かせて言い、笑いが起こる。すごい。そんな冗談がぱっと思いつくなんて。

 思わず顔をぱたぱた手で扇いでしまう。無機質なアンデッドのイメージらしからぬ反応で、恥ずかしい。でも、そうなってしまうんだから仕方ない。

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