第9話-A 中学1年生 ~春の教室で~
中学一年の春。
新しい制服、新しい校舎、新しいクラス。
高野健斗は、相変わらず。
明るくて、笑顔で、誰にでも話しかける。
同じ小学校出身で別のクラスになった生徒ともすぐに打ち解け、
他校から来た生徒にも「話しやすい子」として見られていた。
小学校の頃と同じように、教室の空気を軽くする。
けれど、世界は少し違っていた。
この中学校には、他の小学校から来た生徒がたくさんいる。
運動ができる子、勉強が得意な子、
顔立ちの整った子――その全部を持っている子もいた。
健斗の見栄えの良さと明るさは変わらない。
でも、それだけでは中心になれない世界。
それでも、「高野くん、かっこいい」「かわいい」という声が聞こえる。
由奈は、たまにこのクラスを覗いて、桂花を呼び出しにくる。
健斗が居合わせることもある。
「おー、由奈! なんだよ、久しぶり!」
「昨日、廊下ですれ違ったでしょ。」
「細かっ!」
由奈と話すときの健斗は、
他の誰と話しているときよりも、少し目尻が下がって見えた。
桂花は、心の中でそっとつぶやく。
(……また、いろいろ観察しがいがありそうだな)
昼休み。
桂花は席で文庫本を読んでいた。
指先でページをめくる音だけが、周囲のざわめきの中で静かに響く。
「桂ちゃん、来たよー」
廊下の向こうから、明るい声。由奈だった。
「また来たんだ? 由奈、よく来るな」
そう声をかけたのは、通りかかった健斗。
髪型を整えはじめたせいか、少し大人びて見える。
「うん、桂ちゃんと喋ると楽しいから。
落ち着くし」
由奈はさらりと言って笑った。
健斗は、その笑顔に一瞬目を細めた。
(……高野って、あんな顔するんだっけ)
桂花は小さく息をつき、本を閉じた。
「早く、外のベンチ行こう」
由奈と桂花は連れ立って教室を出ていく。
健斗は、その背中を目で追った。
――小6のときの女子で、今でも話せそうなのは由奈くらいか。
莉乃とはもう話さない。すれ違っても挨拶もしない。
他の子も、なんとなく照れがあって目を合わせづらい。
気まずかった過去を思い出しても、
今はもう、あの頃の“特別”には戻らない。
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