第8話 6年生の3学期 ~季節の狭間~
やっぱり、健斗と莉乃の“決裂”以来、少しずつ空気が変わっていった。
由奈と桂花は、ほとんどの場合において、「存在することが許された存在」になっていた。
中心にいるわけじゃないけれど、端にやられているわけでもない。
中心女子たちから声をかけられることが増え、話の輪の中に入っていっても、誰も変な顔をしない。
きっかけは、おそらく――あの一件からだ。
健斗と莉乃の“お似合い伝説”があっけなく終わって、
「誰が誰を好きか」とか、「どこに属しているか」とか、そんなものがどうでもよくなったような空気が流れた。
それに、もう六年生の三学期。
これまでの子どもっぽい空気が、みんなにとって少し恥ずかしいものになっていたのかもしれない。
思い返せば、二学期の途中くらいから、中心女子グループから離れて別グループを作る子たちがいたのは、そういうことに少し早く気づいたからなのかもしれない。
もともと由奈は、他人と話すことを怖がらないタイプだった。
話すと楽しいし、無理に盛り上げようとしないのに、気づくとみんな笑っている。
桂花はというと、男子とはあまり話さなかったが、今では違う。
由奈に話しかけに来る男子が増えたことで、桂花にも自然と声がかかる。
桂花にも、気軽に話せる男子ができた。
健斗と晴基も、以前より気楽に桂花をいじるようになった。
中心女子たちのように集団意識が強くて少し怖いタイプより、
由奈や桂花のような普通の反応が返ってくる子たちと話している方が、
男子にとっても心地よかったのかもしれない。
気のせいでなく、由奈と桂花の「立場」は変わった。
それは、何かを勝ち取ったというわけではない。
ただ――「ある程度、素の自分でいても居られる」場所が、ようやくできたような気がしていた。
由奈と健斗は相変わらず、じゃれあうようにして話していた。
このころには、二人が“いい感じ”だと言い出す声も聞こえてきた。
「んなわけないじゃん、高野くんなんて、誰とでも仲いいでしょ」
由奈はそう言って、冷やかしを受けるたびに全力で否定した。
けれど、それくらいに見えていたということだ。
桂花から見ても、たまに冷やかしたくなるくらいだった。
(否定するわりに、高野の話、多い気がするけどな。あと、高野は由奈ほど、冷やかしを否定してないかも?)
そう思っても、由奈には言わなかった。
(高野、由奈が他の男子と話してるとき、見てるような?)
そう感じても、やっぱり、由奈には黙っておいた。
それを言っても、由奈はどうせ否定するから。
――そうこうしているうちに、卒業式。
いろいろあったけど、このクラスも終わり。
桂花は、賑やかな教室で一人、最後の光景を眺めていた。
由奈は、他のクラスの友達に呼ばれて、廊下で話している。
春の風が吹き抜けて、教室のカーテンがゆるやかに揺れる。
別れの涙も、歓声も、どこか遠くに聞こえていた。
そして――中学校。
健斗と桂花は、同じ1年2組になる。
健斗、晴基、由奈、桂花の四人の中で、一番交流が薄いこの二人。
けれど、それぞれの親友がこのクラスに顔を出すだろう。
そのたびに、少しずつ新しい関係が生まれていくのかもしれない。
「面白いことがあったら、由奈に報告しよう」
そう思いながら、桂花は新しい教室の窓から外を見た。
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