第7話-A 健斗と莉乃 ~噂の二人~

由奈と桂花は、教室では息が詰まるような思いをしていたが、図書室では違った。

健斗たちとも冗談を言い合ったり、ふざけたり、笑ったりできる。


由奈は、そういう時、生き生きしていた。

本来は、そういう子だと、健斗や晴基も知っているはず。

明るくて、面白くて、少し男の子っぽいけど、安心感がある。


六年生の二学期の終わり頃。

健斗と莉乃は、相変わらず“両想いらしい”という噂が絶えなかった。

それが、この教室の共通認識となっていた。


健斗が他の女子と楽しそうにしていると、みんな莉乃の顔色を窺う。

莉乃が他の男子に話しかけられていると、健斗の視線がそちらへ向く。


桂花と由奈は、その様子を眺めては、こっそり楽しんでいた。


「高野、あれ絶対照れてたよね」

「莉乃ちゃんも、耳まで赤かった」

「この前は、二人の世界だったよ」

「あ、今、高野くんが他の女子と話してるから、莉乃ちゃんちょっと微妙な顔してる」


そんなふうに、由奈たちには遠い世界の恋を話題にできる時間。

本当は、由奈や桂花には口にすることも許されない“人気者たちの世界”の出来事だった。


それでも、話すのは少し楽しかった。


ある日、晴基が莉乃のことを好きだという噂も耳にした。


「え、それ大変じゃん!」

由奈がおどけると、桂花が笑う。


「高野と古山、莉乃の話とかするのかな」

「なんとなく、古山くんが我慢して遠慮しそうだよね」


二人で勝手なことを言いながら笑った。

あの頃は――すべてが“観察の対象”だった。


それは、教室の中の重い休み時間ををやり過ごす方法の一つ。


休み時間は居心地が悪い。


中心女子たちの気分だけで、視線を向けられ標的にされたり、まったく標的にされない時もある。


由奈と桂花が本を読んだり、次の授業の教科書を読んでいるフリをして、

自分のシェルターに籠っている時、

健斗や莉乃のような“中心人物”たちは、みんなを巻き込んで大声で何かを言い合ったり冷やかし合って、笑っている。


二人を取り囲む男子たちも女子たちも、本当は、「莉乃が好き」、「健斗が好き」だったりするのだろう。


少し引いた目で見ている由奈と桂花には、それが手に取るようにわかってしまう。


教室の片隅で眺める恋。

自分の世界ではない光景だからこそ、ドラマみたいで心をくすぐる。


桂花はそう思って観ていた。


けれど――由奈は、少し違う目をしていた。

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