第6話-A 雨の図書室 ~図書委員会~
由奈と桂花のように、教室で居心地が悪い子は、図書室に行くと安心できた。
静けさが“規則”になる場所では、攻撃的な言葉は育たない。昼休みには先生の目もある。
「図書室は真面目でおとなしい子が行くところ」――そんな勝手な住み分けが、いつの間にかできていた。
六月。委員会活動の時間。外は雨。
四人――佐山由奈、小藤桂花、高野健斗、古山晴基――は、図書委員に配属されている。
由奈と桂花にとっては馴染みの部屋だが、図書委員は、業務が多いと言われていて人気がなく、二人は立候補ですぐに決まった。
男子は二人一組の振り分けで、くじに負けた健斗と晴基が回ってきた
――由奈には少し信じがたかった。あの二人が図書委員なんて。
教室の空気が悪くなる前から、由奈は彼らとわりと仲がよかった。
図書委員会には“中心女子”はいない。だから気楽に話せる。
教室では窮屈そうな由奈が、委員会では健斗とじゃれあい、桂花を軽くからかって笑わせる
――その切り替えぶりについて、二人の男子は何も言わなかったが、晴基は気づいていたかもしれない。
由奈と健斗は、本来“口喧嘩っぽくじゃれ合う”間柄だ。
由奈は親戚に男の子が多く、男子の冗談にのるのがうまい。
少しきつい言葉も笑って返す。
話題も拾って広げる。語彙が豊富で、頭の回転も速い。
健斗にとっても、気取らず話せる相手だった。
一方、桂花は男子が苦手だったが、由奈が輪に巻き込むうちに、次第に言葉が出るようになった。
兄貴肌の晴基は、桂花の性格を汲んで“入り口”をつくる。
相槌、目線、間――発言のタイミングをそっと準備してくれる。
七月の委員会。今日の担当は“本の整理”。外はまだ雨。
二人は口元を押さえながら、書庫に入った。
「ここの本、埃すごいね」
「たぶん、ずっと誰も触ってないんだと思う」
「軍手、借りてくるレベルだね」
「だね……」
背表紙を拭う指先に、古紙の匂いがつく。雨音が、屋根を細かく叩いていた。
ぎい、と扉が開いた。
「おー、ここにいたのかー」
健斗だ。大きな瞳と天真爛漫な笑顔――太陽みたいに場の空気が明るくなる。もちろん、晴基も一緒だ。
「俺たちもここでやろうぜ」
「あー、別にいいけど……埃っぽいな」
「先生の目がなくて気楽だろ」
晴基が肩をすくめる。
由奈は、二人の登場に胸が少し躍った。
四人で軽口を叩きながら、背の低い棚の下段を引き出していく。桂花は黙々と埃を払って順番を整える。――由奈はこういうとき手が遅くなる、けれど桂花は気にしない。
「これ、下のほう……なんか、おかしくない?」
由奈がしゃがみ、桂花と一緒に古い冊子を引き出した、そのとき。
「――あれ?」
「今……光った?」
本の隙間から、淡い光がふっとこぼれた。
四人は同時に息をのむ。
「見えたよね」健斗が目を見開く。
桂花の手の中の本は、ただ色褪せた百科事典のようにしか見えない。
「……気のせい?」由奈。
「いや、見た」桂花。
「俺も」
「俺も」
健斗と晴基が続く。だが光は、もうどこにもなかった。
光は、ほんの数秒だけ四人を照らして、消えた。
――その後も、何も起きない。
不思議なできごととして、四人の記憶にだけ残った。
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