第5話 由奈と莉乃
莉乃は、由奈のことをよく知っていた。
家が近くて、五年生で同じクラスになる前は、しょっちゅう一緒に遊んでいた。
由奈はおとなしそうだけど、話すと面白い。
言葉をたくさん知っていて、思いがけずツボを押さえた言い方をする。
変なところで頑固で、だけど誰にでも優しい。
──いい子だと思う。だからこそ、なんとなく腹が立つときもある。
「莉乃ちゃんてさ、ちょっと負けず嫌いだよね」
そう言われたのは、五年生のときだった。
由奈は、付き合いが長いから気軽に言ったのかもしれない。
莉乃には、図星だった。
何でもそつなくこなす由奈。
大人には褒められ、男子には不思議と好かれる。
自分の方が明るくて可愛いと言われることは多いけれど、
由奈の静かな強さは、時々、無性に癪に障った。
だから、由奈が苦手なものを見つけたときは、わざとからかった。
「うわ、こういうの苦手なんだ?」
「意外〜。由奈、できそうなのにね」
由奈は、勉強や運動でつまずいても、「そういうの苦手でさ」と笑ってみせ、
やがてそれを克服してしまう。
そうなると、また腹が立った。
莉乃が悩んでいるより短い時間で、大人に褒められる方法でクリアしてしまうから。
由奈と同じクラスになったが、
莉乃は中心女子の華恵たちと一緒にいた。
莉乃は、由奈とは根本的に人間性が違うと思っていた。
由奈もそう思っていたかもしれない。
なんとなく、クラスの雰囲気や流れの中で、二人の距離は開いていった。
昔みたいに放課後に遊ぶことも、もうあまりなかった。
ふとした時に目にする。
──健斗と、由奈が話している時。
その笑顔。
莉乃がどれだけ面白い話をしても見せないような、健斗のあの柔らかい表情。
からかうような冗談の応酬、くすぐったそうな笑い声。
(なんで由奈なんかと、そんなに楽しそうに話すの?)
莉乃は、健斗から好かれている――それは自分でもわかっていた。
他の男子にモテることは、正直どうでもよかった。
クラスで一番輝いて見える健斗じゃなきゃ、意味がない。
健斗と一番仲のいい女子になれたら、何かを勝ち取った気持ちになれる。
きっと多くの女子が、同じように感じていた。
莉乃は、健斗が由奈を見て笑う顔だけは、見たくなかった。
あんな顔は、他の女子にはしないから。
だから、由奈が健斗とあまり話さなくなったのは、正直、少し安心した。
優しくて、賢くて、いつも静かに自分の居場所を作っているあの子は、
派手さや勢いでは太刀打ちできない、“魅力”を持っている。
きっと由奈自身は、それに気づかない。
莉乃は、鏡を見ながら思った。
「……負けたくないな。」
その呟きは、ほんの少し震えていた。
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