第2話
公園を出て少しの距離を進むと、目の前に懐かしい景色が広がった。田んぼが広がり、緑豊かな山々が遠くにそびえ立っている。風が優しく吹き、土の匂いが漂う。
最近はどこにも文明の波が広がっているが、この辺りは全然変わっていないようだった。
歩いていくと、やがてお祖母ちゃんの家が見えてきた。古い木造の家で、庭には草花が咲き乱れ、時折鳩の羽音が響く。どこか懐かしい、温かな空気に包まれたこの家。
「ただいま、お祖母ちゃん!」
俺は出会う前からそう言って、玄関に向かって歩みを進めた。
少し行くと、そこにはお祖母ちゃんが立っていた。白髪が少し増えたけれど、その笑顔は変わらなかった。優しい眼差しで俺を見つめ、すぐに声をかけてくれた。
「おお、帰ったか。よく来たね」
お祖母ちゃんはにっこりと笑って俺を迎えてくれた。その笑顔を見た瞬間、なんだかホッとした気持ちが込み上げてきた。
「久しぶりだね、お祖母ちゃん。元気だった?」
俺はお祖母ちゃんに微笑み返しながら尋ねた。
「元気元気、歳を取ったけどね。こうして家族を迎えられることが何より嬉しいよ。孫の顔も見られるといいんだけどねえ?」
「都会は忙しいからそうした暇はないよ」
「私も良い人が居れば紹介できるといいんだけどね」
お祖母ちゃんはそう言って、少し照れくさそうに笑った。そして、俺を家の中へと招き入れる。
「さあ、入っておいで。お昼ご飯にしようかね」
「ありがとう、お祖母ちゃん」
俺は頭を下げて、お祖母ちゃんの後ろをついて家に入った。
入ってすぐに広がる、昔ながらの日本家屋の温もり。木の床に畳、そして部屋に漂うお祖母ちゃん特有の香り。ふと懐かしい気持ちが込み上げてきて、幼い頃に過ごした日々が鮮明に蘇る。
お祖母ちゃんは台所で食事の用意をし始めた。俺はその後ろ姿を見つめながら、ここに帰ってきたことが不思議と心地よかった。
「そう言えば公園で不思議な女の子に会ったんだけど」
「海月ちゃんだね。白いワンピースで麦わら帽子の」
「知ってるの!?」
俺の反応に、お祖母ちゃんが振り返り、軽く笑った。
「私は村の事情には詳しいんだ。お前もしかして海月ちゃん狙いなのかい?」
「そんなわけないでしょ! ただ会って一緒に話をしただけだよ」
「あんたが女の子と話をね。私からもそれとなく聞いておくよ」
「ほどほどにね……」
それから食事と洗い物を済ませ、お祖母ちゃんが立ち上がった。
「じゃあ、まずは畑の作業を手伝ってくれんか? 今日は天気がいいし、畑仕事をするには絶好の日だよ」
「うん、手伝うよ!」
俺はすぐに答えた。お祖母ちゃんと一緒に過ごす時間が、何より楽しみだったから。
その瞬間、俺の心に「帰ってきたんだ」という実感が湧き上がった。あの夏の暑さも、この穏やかな時間も、すべてが俺にとってかけがえのないものだった。
「じゃあ、手を洗って鍬を持っておいで」
お祖母ちゃんがにっこりと笑いながら、俺に声をかけてきた。
「うん、すぐ行く!」
俺は家の中を見回し、心の中で「ただいま」と呟いた。
そして、俺たちの夏がまた始まったのだった。
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