第3話

 散弾銃を手にした父の姿を見て、俺は退いた。父は銃口を下に向ける。


「すまんな」

「いやいや怖いって、というか銃なんか使って脅し取るのかよ」


 父は手を振って否定する。


「ただの保険だ」

「保険って」


 保険で銃が必要になるのが日本とは思えなかった。まるで強盗だ、と思ったのだが、今は非常事態ということを忘れかけていた。車は高い塀の脇に停めてあり、その塀は曲がり角までずっと続いていた。防犯カメラが塀の上にあり、大きな門があった。父は扉の側にある長方形のものから蓋を外し、中にあるボタンを押し始めた。パスワードでも入力しているのだろうか。俺はそのことを聞かなかった。門が開くと、父は門の奥へと入っていく。


「いいのかよ。人の家だろ」


 俺は門の手前で止まって、父を制するが、父は黙って手を挙げるだけだった。俺は走って父の後ろを追いかけた。


 門を通り抜けると、坂を下っていき、小さな扉の前にやってきた。ここは地下一階くらいだろうか。鍵穴に鍵を差し込み、父はその扉でさえ開けてしまった。


「どうして、鍵なんか持ってるんだよ」


 父はやっと振り返るが、笑みを浮かべるだけだった。涼しい空気が扉の奥から外へと抜けていった。駅のプラットフォームのような埃臭さがある。何年も使ってないような寂れた雰囲気があるが、壁も床も綺麗なものだった。白い壁と茶色い床だった。奥に進んでいくと、エレベーターのような箱があり、ボタンを押し込むと、やはりエレベーターだった。箱の中に乗り込むと、地下へと降りていった。地下五階に辿り着くと、廊下を進み、広い部屋に出た。テーブルと椅子があり、ソファは奥にあった。部屋には扉が三つあり、廊下に続く扉と他に二つあった。


 父はソファに座り込む。


「そこの扉に入らなければ、何をしてもいい」


 俺は思っていたことを口にする。


「ここは父さんが借りているの?」

「いや、父さんの先祖のものだ」

「そうなんだ」

「いや嘘だ」

「どうして嘘なんか吐くんだ」

「こういうときこそ、嘘を吐くもんだ」


 父はそう言ってソファに深く腰掛けていった。次第に眠ったのか深い呼吸を繰り返していった。俺は父に言われた通り、禁止された扉とは別の扉を開けた。書棚がぎっしりとあり、机と椅子が置いてあった。


 机の上に紙きれがあり、殴り書きされた言葉が羅列してあった。

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@fujimiyaharuhi

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